第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】
その後、明け方近くまで散々抱き潰し親父が帰る昼前まで2人で眠っていた。
「嫁にくれっっ!!」
帰ってきたところに俺が居たのも驚いただろうが、開口一番に俺が畳に頭を擦り付ける勢いでそう言ったせいか、わかりやすく腰を抜かしている。
「……や……」
「………や…?」
「やらねえええよおお!!!ふざけんなよ!!こないだ娘に迎えたばっかだぞ!?そりゃあいつかは…って、早過ぎだろおおおお!!?」
頭を抱えたり、地団駄を踏んだりしている。
「んなこた関係ねぇだろ!!俺は紗英を嫁にする!!なんならこのまま連れて帰る!!」
「てめぇ仮にも嫁にくれって言ってるなら、もうちょっと低姿勢でこいよ!!!上から過ぎだろ!!」
親父と俺がギャーギャー喚いている側で、紗英は1人クスクスと可笑しそうに笑っている。
『…お義父さん、鋼鐵塚さん』
喚き合い、掴みかかり合っていた2人の動きがピタリと止まる。
『…お嫁に行くのはもう少し後にしたい。…鋼鐵塚さん、だめ…ですか?』
「「紗英!!!」」
「なんならずっと此処にいなさいっ!!」
「なんでだよ!!?嫌なのか??!」
『そ、…そうじゃなくて…。もう少し、お義父さんと暮らしたいなって…折角、養女にして下さったばかりだから…でも、鋼鐵塚さんのお嫁さんにも…して頂きたいです…。』
照れているのか語尾は消え入りそうな程小さくなり、顔を赤らめている。
本当、どうしようもなく愛おしいから困る。
「〜〜〜わかった…。」
『鋼鐵塚さんっ!』
狂喜乱舞している親父を横目に、そっと紗英の耳に口を寄せる。
「…ガキが出来ちまう前に、来いよ」
途端に顔を真っ赤にして、もう!!と言って怒ったように見せたかと思えば、もう笑っている。
風が風鈴を揺ら鳴らし、涼やかな笑い声が耳に届く。
こんな、なんでもない穏やかな日常を守るため…
俺は日輪刀を打ち続けようじゃないか。
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里へ戻り鉄珍様に嫁をもらうと伝えれば、失神してしまったのは
また別の話。