第14章 北風と太陽【不死川実弥】
紗英さんの邸を後にし、甘味処にでも寄っておはぎを買って帰るか…と…ぼんやり考えて歩いていると、道の向こうから竈門炭治郎が黄色いのと猪を連れ歩いて来るのが見えた。
この道を歩いてる…ってことは、紗英さんの邸に帰るのだろう。
チッ…っ、見たくねえもん見たぜ。
「あ、不死川さーーん!!」
俺の姿を見つけた竈門炭治郎が走り近寄ってくる。
…来んのかよ。無視しろよ!…面倒くせぇな!
「ご無沙汰してます!…紗英さんのところに行ってらっしゃったんですか?」
「あ"ぁ!?だったらなんだ!?てめぇに関係ねえだろ!?気安く話しかけんな!俺はお前のこと認めてねぇぞ!!」
「大丈夫です!俺もあなたの事認めてないんで!!禰豆子刺したんで!」
とことんイラつかせるガキだな!!こんな野郎の何が良いんだよ!!本当に!!
『…太陽みたいなの。』
その時、不意に紗英さんの言葉と笑顔が脳裏に甦る。
ムカつく野郎だが…紗英さんを笑顔に出来たのは、間違いなく…こいつなんだ。
…まあ、それも腹立たしい事に違いないが。
「…おい、竈門炭治郎。」
「はいっ!」
…でけぇ声で返事しやがる。
「紗英さんを泣かすんじゃねえぞ。」
竈門炭治郎は一瞬の間を置き、口元を引き締める。
「はいっ!…勿論です!」
クソガキに違いねえが、その表情だけは気に食わねえけど認めてやる。
…大事な女を守ろうとする、男の顔をしやがって。
竈門炭治郎に見えないように、ふ…っと笑い其の場を後にした。
やっぱり気に食わねえが…紗英さんが笑顔ならそれで良い。
俺は帰り際に言われた一言を思い返した。
『不死川もいつか、彼が太陽だって…思う日が来るわ。』
そんな日、別に来なくたって構わねえけど。
…紗英さんの、柔らかな笑みを見る事が出来た事だけは
感謝してやるよ、竈門炭治郎。
俺は「風」だ。
大風にも、そよ風にもなって…
いつまでも…、あの人に届く「風」を吹かせ続けよう。