第8章 姉の結婚【煉獄杏寿郎】
荒い息遣いが静まり返った部屋に響く。
引き抜いた昂りには、破瓜の証拠である血痕が少し付着していた。
塵紙で腹の白濁を拭い去り、夜着を整えやる。
『…杏寿郎さん…』
小さな声で俺を呼ぶ。
「…はい…?」
紗英の隣に身体を横たえ頬に手を添える。
『……夜明けまで。このままで居させて下さい。』
手を重ね添え、熱覚めやらぬ瞳で俺を見る。
「…居て下さい。このまま…俺の隣に。」
小さく頷いて、微笑み…ゆっくり瞳を閉じた。
すぐに聞こえてきた寝息。
こうして隣で眠っているのを見るのは、子どもの頃以来だろうか。先程まで色香を放ち淫れよがっていたはずなのに…今は、あどけない安心した顔で眠っている。
こんな顔を側で見られるのも…今夜限りだ。
きっとこの優しい人は、これからも「弟」として俺を変わらず愛してくれるんだろう。
忘れないで…ーー、と呟いた紗英。
どんな気持ちで言ったのか…。
答え合わせは…永遠にしないでいよう。
生業上…今まで一度も願った事はないが…今夜だけ。今夜だけは…。
この夜が永遠に明けなければいい。
紗英の寝息を子守唄に…俺も目を閉じた。
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まだ夜も明けきらぬ内に目を覚まし。
紗英を部屋へと運び、眠ったままの紗英を布団に寝かせる。
「…行ってきます。…姉上。どうか…お幸せに。」
眠る紗英に頭を下げ、静かに障子を閉めた。
静まり返った家を出る頃には、薄く朝陽がさし始める。
今日はきっといい天気だ。嫁入り日和になるだろう。
さあ…。俺は任務だ。柱である俺の助けを待つ人々がいる。
それが俺の、責務だ。
お館様の邸に立ち寄り、任務へ向かう。
そして…ーー、何名もの隊士が消息を絶ったという、無限列車へ俺は足を踏み入れた。