第2章 暴君な王様(跡部景吾)
プルル、と無機質な音が3コール程鳴り続けると聞こえてきたのはいつものクールな口調とは変わり少しトーンを下げた所謂プライベート用の口振りなのか、なんともまぁ女らしからぬ低い声だった。忍足は一瞬戸惑ったものの頼華と話をするのはこれが初めてでは無い為軽く謝罪してから本題に入ろうと思った。
「ちょっと、景吾今忙し─」
「あ、龍ヶ崎先輩?忙しいとこすまんなぁ」
「は?…忍足くんじゃない。どうしたの」
「もうどうしたもこうしたもないがな」
「…もしかしてまた引きこもってんの?」
「せやねん。これじゃあ部活にならんで」
「…はぁ。仕方ないわね。」
すぐにそっちに行くわ、と電話が切れた。そんな電話をしてる間もずっと跡部は頼華…とまるで茸でも生えるのではないかというくらいの表情だ。王様も形無しやんけ、と忍足は1人ため息をついた。それから本当にすぐ、と言ってもいいくらいに外から嬌声と感嘆で騒ぎ立てる後輩達の声が聞こえる。クールな性格に惚れた男女が多くどこに行ってもこれだ。当の本人は全ての取り巻きをさぞウザったいと言うように跳ね除けている。勢いよく部室の扉が蹴破られそして激しく閉められた。どうやら半分はお怒りの様子だ。
「はぁ……」
「…………」
「ちょっと、景吾」
「!?…なんかいま頼華の声が…」
「あんたのせいで部活ままならないらしいわね」
「… 頼華!!」
「…別に生徒会だから部活見に行けないって
言っただけでしょうが。」
「?」
「…はぁ。一緒に帰れば済む話でしょう?」
「!!」
跡部はぱぁぁっと言うのがお似合いだろうそんな表情をしていた。忍足はやれやれと頭を抱えた。
「…部員に迷惑かけちゃダメでしょう?」
全く、もう、と言いながらもどこか少し楽しげに笑いながら王様にキスを落とす彼女はやはり最強でした。
暴君な王様
────の彼女は氷の女王様でした
(!!頼華!もういっかい!)
(はいはい、部活ちゃんとしたらねー)
(忍足!行くぞ!!)
(はぁ…なんやねんもう)
(ハーッハッハッハ!頼華!終わったら
迎えに行くからいい子で待ってろよ!!)
(…はぁ、わかったから早く行け)
いつもの暴君に戻った王様の後ろ姿を
見守る表情はさぞ優しいものでした。
end