第9章 共に歩こう(土方十四郎)
「俺もいるぜー」
無気力な声のする方へ向けば万事屋の姿。
「…なんで揃いも揃ってお前らなんだよ」
はぁ、とため息をつく土方。
「土方さん、幸せが逃げますぜ」
「多串くんの幸せ俺が貰おー」
「やめろ!!」
「おー。打たれた割に元気やないですかぃ」
「…頼華は、」
沖田の話によればあの後完全に記憶を戻した頼華は土方に抱き着いて離れようとしなかったそうで。頼華の記憶が戻ったことを医者に診せる為にも土方も大江戸病院に運んだ、との事だった。
「ほら、これ、頼華の荷物」
半年も万事屋にいた頼華の荷物はかなりの量になっていて。どうやらそれを万事屋は持ってきたらしい。
「おいマヨラー、もう頼華泣かすなアル」
「は??」
「頼華さん、自覚ないみたいですけど寝ている時よく土方さんの名前呼びながら泣いてました」
「んじゃま、そーゆー事だから」
「俺たちは帰りませぇ」
それを聞いた土方は心を決めた。
それに気づいたように沖田達は病室を後にする。
その入れ替わりのようにパタパタと廊下を走り近づいてくる足音があった。
「…十四郎!」
「…頼華。」
久しぶりに彼女自身に彼女の名前を呼んだ。こんなにも気持ちがいいもんか、と思いながら。
「何から言っていいか………その…!」
恐らく彼女が謝ろうとした時。土方は彼女を抱き締めていた。
「謝らなくていい、謝らねぇといけねぇのはこっちの方だ。」
「…」
「…よく聞け、頼華。俺はお前をあいつの代わりだなんて思ってねぇ。どうせお前のことだ、そんな風に思っていたんだろ。俺はな────」
そう言う土方の眼差しは優しくて。頼華は涙が止まらなかった。
「お前が好いてくれてるのは知ってたんだよ。昔の俺ならまた突き放して傷ついて傷つけて。けど今回の事で痛いほどわかったんだよ」
どうしようもなく、お前が好きだ、頼華
共に歩こう
──遠回りしてきた分傷つけてきた分
ずっとお前と歩きたい
(あたしも、十四郎がすき…!)
(…あぁ、わかってる)
こうなることを予想していた沖田が土方を当日退院させ屯所で頼華に看護させたのはまだふたりには秘密──
end