第8章 そして君を(跡部景吾)
陸上部の私は負けじと走るけれど普段から鍛えてる、しかも強豪のテニス部部長様には勝てるわけもなく。
中庭に飛び出した所で手を掴まれた。
「ちょ…!」
何してるの、皆見てるし、目立つ!!と言おうと思ったのに目の前の景吾は口元が緩んでいて私は背筋がぞくりとした。
こんな表情してる景吾には嫌な予感しかないのだ。何年幼馴染として隣にいると思ってるの。
気づけば掴まれた手を引かれ景吾の腕の中にいた。
「…何してるのよ。目立つじゃん…!」
景吾だけに聞こえる声でそう言うけれど景吾はニヤニヤしてるだけ…もうヤダ誰か助けて。
「…俺様と共に注目を浴びろ」
「はぁ!?」
景吾の言葉につい大きい声が出てしまったのだが
「お前となら俺様は堕ちてもいいんだぜ、頼華」
噂になって、注目されても、俺様と堕ちろ、
お前となら噂に成り果てよう
そう言った彼の顔があまりにも眩しく見えたものだからつい頷いてしまった。…あぁ、もういいや、知らない。
平和な私の日々よ、さようなら。
そう思って目を瞑った。
そして君を
────骨の髄まで愛してあげる
(人目に晒されてるのに)
(不思議と嫌な気持ちはしなかった)
そんなひとコマがあった後に凄く教室には戻りたくなかったのだけれど。戻ってみるとわーわーと私たちを囃し立てる声。
「ちょっと!あんたの彼氏やっぱ跡部くんじゃん!」
「…え、やっぱって、何」
「いやぁ、うちら薄々勘づいてたのよねー」
「だって、頼華を見る跡部くんの顔、全然違うし」
「それに頼華だって」
ずっと跡部くんばっか見てたじゃない、と。…まじでか。全然気づかなかったんだけど。
景吾はといえば私の後ろの席に座ってこちらをずっと見ていた。
end