第8章 そして君を(跡部景吾)
「ねぇ、頼華って彼氏いないの?」
「へぁ?」
わいわいと皆それぞれが友達同士お昼ご飯を食べている中友人から発せられた言葉。卵焼き詰まるかと思って変な声出た…。
「はぁ?いきなりどうしたの」
「いきなりっていうかさー」
最近頼華雰囲気変わったよねって思ってと目の前の友人は笑う。確かに、私には彼氏が出来た。それもつい最近。まぁ彼とは昔からの腐れ縁だったのだけれども。気づけば1番近くにいた彼を好きになっていた、という幼馴染が故の事なのだけれど。
「どうなのよ実際」
「……まぁ、出来たよ」
「ほらやっぱりー!だって可愛くなったもん頼華!」
「恋する乙女は素敵さってかー!」
友人たちはうんうんと頷きながらあたしも彼氏欲しいなー!と言っている。
「で!どこの誰よ彼氏は!」
「…なんでそんなに気になるかなぁ」
「いやー気になるでしょ、普通!」
ねぇねぇとわくわくした顔で見つめないでくれ友人よ。彼は─氷帝学園にいる者なら誰でも知っているであろう跡部景吾なのだが。
昔から派手好きな彼奴とは違って私は平和に過ごしたい。目立ちもせず地味でもなく。普通に勉強して普通に友人と楽しく過ごせればいいんだ。告白してきたのは景吾からなのだが、彼と付き合った日に絶対に皆にバレたくないと本音を言ったのだけれど。その時の景吾の表情と言ったらまぁ…思い出したくもない。
そんな彼は友人らの話が聞こえていたのかこちらを睨んでいるのだけど。…おぉ、怖い、眉間にシワ寄せすぎだよ景吾。綺麗な顔が台無し。てか、そんなこっち見ないでよ、バレるでしょ、って顔をしてやれば尚更シワが深くなった。…もういいや。
「おしえてよー!!」
「教えなーい!!」
「頼華のケチ!」
「…まぁでも、どんな人かなら教えてあげる」
いつも上からで偉そうで、でも優しい所もあって涙もろい所もあるし、格好良いんだよ。だから好きなの。
きゃー!いいなぁ!と友人たちは喚く。…ご飯冷めちゃったし。はぁ、と溜息を吐くとふと景吾と目が合って。…なんか凄い嫌な予感がするのだけれど。景吾は凄く悪い顔してる…。
咄嗟に食べかけのお弁当に蓋をして(お母さんごめんね…!)友人にトイレ!と適当に言ってその場を逃げ出した。…なんで景吾が追ってきてるの!気づけば彼はすぐ後ろにいた。