第68章 不安分離症(ゾロ)
わたしは一体、なにを見てしまったのか、なんて。
頭では理解出来ずに、足だけが、動き始めていた。
数時間前。
ゾロと共に、トコの命を狙う人斬り鎌ぞうから逃走していた際に彼とはぐれてしまった。
方向音痴の彼のことだ。いつもなら、わたしの手を彼が引くか、またはわたしが彼の手を引くかするから、はぐれることはなかったのだけど。
はぐれてしまった彼を探すべく、色々見て回ったけれど見つからない。
ひとつ、見つけたのは血の跡で。恐らく、彼のものかと理解して。
きっと深手を負っているに違いないゾロを、はやく手当てしなきゃなんて思いつつもなんせ地形が分からないからどこに行けばいいのか皆目検討もつかない。
「あ、ライカさん!」
「…ブルック!」
彼ではなかったけれど、漸く仲間のひとりであるブルックにあえて内心ほっとした。ブルックに事の経緯を説明すると一緒にゾロを探してくれるらしい。
気づけば眩しい光で朝だと気づく。
ふいに、彼を近くに感じた気がして目の前の小屋を見る。人が隠れるにはちょうどいい小屋。彼がいるかもしれない、なんて期待していた自分が馬鹿だった。
満足に毛布もない小屋で冷え込みの厳しい夜を過ごしたのか。手当てされたあとのゾロに、寄り添う様な格好で添い寝をしている女の人がいた。
ブ「えぇ!?ゾロさん!!!」
理解したくない現実がわたしを突きつけてくる。
ひ「んー…どなたですか…?」
むくりと起き上がったターコイズブルーの髪色をした、綺麗な女の人。
ブ「綺麗な人…じゃなくて!ゾロさん起きてくださいよ!」
ブルックも、わたしがゾロと付き合っているのを知っているから尚のこと理解ができていないのか、未だに眠るゾロを叩き起していた。
「…なんだ、うるせぇな…」
そして、探していたはずの彼が目の前で起き上がったのを尻目に、わたしは見たくない現実から逃れるべく、足だけが動き始めた。
ブ「え!ライカさん!!待ってください!!」
ブルックの呼び止める声が聞こえたけれど、わたしはもうこれ以上あの場所に居たくなかった。
冷たい雪が、わたしの足や顔に当たるけれどそんな痛みより心が痛かったからただひたすらに走り続けた。
ごめんね、ブルック。