第67章 タカラモノ(玄奘三蔵)
彼女のことを”妹”としてではなく、”女”として見ていたのはいつからだったか。
『江流。今日から君の妹になる頼華だよ。』
そう言ってあの人が連れてきた赤子は銀白色の綺麗な髪の色をしていて。赤子のくせにどこか見透かしたような青い色の瞳。
無意識に差し出した手を、赤子はぎゅ、と小さい手で握り返してきた。
成長するにつれて、表情豊かに育っていった頼華だったが、どこか儚く今にも消えてしまいそうな顔つきをするのは変わらなくて。
あの人が死んだあの日。
あの人の血と頼華の血が、綺麗な彼女の銀白色の髪にべっとりついていて俺はごくりと生唾を飲み込んだのを覚えている。
半妖のせいなのか人よりも傷の治りが一段と早い頼華は、身体的な成長も早く、身体的な面での女らしさは日に日に増していった。
ただ、守りたい。その思いは何時しか、こいつを守れるのは俺しかいない、と。
そして、万が一にもないが彼女が死ぬなら俺の手で、なんて重い愛を背負っていた。
「__…玄奘、」
「…悪い。」
「どうしたの、ぼーっとして」
「…いや、何でもねぇ」
「…そう?」
「あぁ。少し考え事をしていた。」
今、俺の目の前でベッドに横に伏せる頼華を目に、つい昔のことを思い出していた。
「…悪かった。」
「え、」
「…守るって約束したのにな」
俺は今、どんな顔をしているのだろうか。
あの日と同じ、苦虫を噛み潰したような気分だ。
ベッドからはみ出した頼華の手にそっと触れる。あの頃より少し大きくなった手は、俺よりは小さく真っ白だ。
「…玄奘。それは違う。」
握り返してきた頼華に、俺は未だに彼女の手元を見るしか無かった。
「…私だって、玄奘を守りたいの。」
「…」
「自分の意思で、あなたを死なせたくなかった。」
その言葉に、ゆっくりと顔を上げればかち合う目と目。どこか見透かしたような、綺麗な青はこちらを見ながら笑っていた。
「…こんな傷、すぐ治るよ」
「…でもお前は女だ」
ほんの一瞬。数秒にもない時間で刃の矛先が頼華の頬に向けられて。勢いで彼女の身体ごと引いたつもりだったのに、頬には浅く短い傷がひとつ、つけられていた。