第65章 微睡みのなかで(跡部景吾)
誰にだって癒される場所は必要で。財閥の御曹司だとか、色んな据のなかで生きる彼には必要不可欠なものだった。
ふわふわと彼の髪が私の顔に当たる。光に反射された綺麗な髪の色は、とても神々しいものに見えて仕方なかった。
「…」
「景吾くん?」
規則的に聞こえる息遣い。どうやら彼は私を抱きしめたまま、再び眠りに落ちたらしい。最近は卒業と高校進学まであと1ヶ月という節目で、生徒会長としても氷帝学園中等部テニス部部長としても引き継ぎで忙しかったから。
余程疲れているのかな、と思い起こすのは申し訳なく私も再度眠りにつくことにした。
目を閉じれば、聞こえてくる息遣いと景吾くんの心音にあっという間に心地よい睡魔に襲われた。
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入学式のときに壇上で俺が放ったひとことに
俺をただまっすぐ見据える視線が、ひとつ、あった。
誰よりも小さいその女は、俺目当てで入ってきたであろう他の女とは違いただマネージャー業を淡々とこなしていて。
萩之介をはじめ、忍足たちと会話している時に見られる笑顔に少しずつ惹かれていく自分がいた。
その笑顔を俺に向けて欲しくてたまらなくて。
心が通じあってるのが分かったとき、俺は試合に勝ったときよりも嬉しかった。泣かせてしまったときは俺の心まで痛くなって。
頼華のためなら全てをかなぐり捨ててもいい、そんな覚悟でいたから。
俺が世界で1番大切な頼華。
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再び目を開ければ、また寝てしまったのだと思い慌てて外を見る。太陽はまだ真上にあってそんなに時間は経っていないとわかり安心した。
ふいに手の内で身動ぎする頼華が目に入る。安心しきった寝顔に本当に感情豊かになったなと思う。笑ってる顔も怒った顔も恥ずかしそうな顔も。
「…景吾、くん?」
「あぁ。おはよ頼華」
「おはよ、景吾くん」
優しげに穏やかに下がる目尻に愛しさが増して俺は彼女に口付けを落とした。
微睡みのなかで
(そろそろ起きるか)
(…んー、)
(どうした?)
(…まだ、もう少し引っ付いてたい)
(…っ)
(…だめ?)
(甘えただな、ほら来いよ)
ふたりでゆっくりして過ごす休日もいいものだな。
end
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とりあえずイチャイチャして。笑