第65章 微睡みのなかで(跡部景吾)
『今日から俺様がこの学園の王様(キング)だ!』
静まった体育館に響き渡る彼の言葉。私は彼が眩しくて、大きく見えて仕方なかった。
こんなにも、住む世界の違う彼に惹かれる自分がいるなんて思いもしなかった。
入学式を終えて、萩之介と向かったテニスコート。そこにも彼は存在していた。
楽しそうに、パワフルに、テニスラケットを振る彼への声援は凄まじく。思わず自分も、声には出さなかったけれど”がんばれ”と無意識に口は動いていたから。
華々しく見える学園での生活。こんなにも恵まれている人が近くにいて、私は同様を隠せなくて。
住む世界が違えど、彼にどんどん惹かれていくのは必然だったのかもしれない。
_____
「…ん、朝…」
眩しい光に誘われて目を開ける。…あぁ、そうか。あれは夢かとすぐに理解して。隣を見れば愛しい彼の寝顔があった。
「…おみず、」
寝起きで喉が渇いてベッドボードに手を伸ばしたけれど、手で弾いてしまってコロコロとペットボトルが転がって行った。仕方なしに、ベッドから彼を起こさないようにゆっくり降りた、つもりだった。
「…どこに行く」
「あ、ごめん。起こしちゃったね景吾くん」
以前私がベッドを抜け出していた前科があったからか、あれから私の動きには敏感な彼が前髪をかきあげて寝起きの顔でそう問うてきた。
「お水、落ちちゃったから拾うだけだよ」
ほら、と指さしてそう伝えればゆっくり離された手。すぐにペットボトルを拾い上げて中の水をゴクリと1口飲んだ。寝起きで乾燥した喉に潤いが戻ると、私は再び彼の待つベッドへ戻った。
戻ると同時に引っ張られた腕に、私は彼の胸元に抱かれた状態で横になっていた。
「今日はまだ寝るの?」
「…今日は久しぶりのオフだ。昼から出かけるが…」
そう言いながら私の頭に顔を埋めた彼。
「…今はまだ、このままがいい」
「今日は甘えただね」
「…いいだろたまには」
付き合って知ったこと。彼は意外にも思うかもしれないが、ふたりきりの時ほんのたまに、甘えてくることがある。
いつもは俺様でみんなを引っ張っていく彼だけど、私にはめっきり甘くて優しくて。
そんな彼の一面が可愛くてたまらないのだけれど。