第64章 キミなしではいられない(XANXUS)
ここ、ただのカフェだよな?と俺は斜め前のテーブルに座る2人を見てそう思っていた。
日曜日の昼間。俺は仕事を手にカフェに来ていた。
普段なら在宅での仕事を淡々とこなしているのだが、どうもパソコン相手にカタカタと延々と繰り返す日々を過ごしているとカフェインが取りたくなるのは必然だろう。
自宅にコーヒーメーカーがあるから別に作れないこともないのだが、在宅に篭もりっぱなしの生活が続けば鬱々としてくる。
企画書を作成しているのだが、途中で万策付きて気分転換としてカフェにやってきたのだが。
カウンターでアイスコーヒーを頼み商品を受け取って席を探した。
壁際に併設された2人用の席。俺が腰掛けたタイミングで、俺の斜め前にある席にやってきた男女。大柄な男と相対して小柄な少女。
俺に向かい合う形で座っている少女をちらりと見ると少女はどこか儚げで、顔つきはまだ幼く感じる雰囲気だった。
男の方は俺と同じ向きに座っているから、顔つきは分からないのだがかなり体格がいいのは分かる。
どう見てもカップルのそれには見えない。まぁ男の顔を見ていないから何とも言えないが、聞こえてくる男の声はかなり低いもの。
一方で少女といえば、ホイップクリームがこれでもかと乗せられたフラペチーノを口にして時折笑っている。
カタカタとパソコンで作業しつつも、俺はふたりの会話が気になって仕方なかった。
ふと少女をまた見遣れば、少女の口にホイップクリームらしきものがついている。
それを男に指摘されたのか、慌てて口元を拭おうとした少女の手を男は掴んでいて。もう1つの手で、男は少女の頬に手をやっている、と思った瞬間に男と少女の顔が重なった。
…おい、ここはカフェだよな?なんて俺の思考が停止する。
すぐに離れた男の影からみえた少女の顔つきは、さっきまでと変わっていた。まさに、女の顔つきとでも言うべきか。
『…甘ぇ』
『もう!ここ外なのに!』
『ンなもん関係ねぇ』
『…XANXUSのバカ』
『クリームつけてるお前が悪い、頼華』
どうやら少女はここが外だと気にしている様子で。一方男の方は全く気にも止めて居ない様子だ。
どうやら2人はやはりカップルらしい。2人を纏う雰囲気が、濃くなった気がしたから。