第52章 桃源郷(玄奘三蔵)
「ちょっと!近い!」
「あ?気にするな」
「だっ…人前!」
「だから気にするな」
今日も今日とて天竺を目指して進む三蔵一行。白竜(ジープ)の助手席で繰り広げられてる会話。
「ん、む…だ、から!!」
「良いだろうが別に」
「言いわけない!!」
グギッ「…てめぇ」
「こんな所でやめてってば!」
「まーた始まってら」
「もう3日、宿に泊まれてないですからねぇ。そうとう溜まってるんでしょう」
「なんだ三蔵、腹減ってんの?」
「…ある意味そうだろうな」
助手席のふたりを見て、悟浄はハイライトに火をつけため息をついた。まぁ確かに、3日間野宿とか砂漠の繰り返しでまともに寝付けていない。前回立ち寄った村で食料は買い込んでいるから食い繋げてはいるものの、三蔵にとっての”食事”が出来ていないからだろう。
「煩悩まみれの三蔵サマは腹減ってんしゃーないんだろ」
「食い物こんなにあるのに?」
「…そっちの食い物じゃねーよ悟空」
「訳分かんね」
未だ頭に疑問符のある悟空は、自分の鼻腔にかすかな食べ物の匂いを察知した。
「食い物の匂いする!!!」
「相変わらず猿だなお前」
「あれ、町じゃないですか?」
八戒の言う先には、町と思しき集落が。
「あ!ほ、ほら!玄奘!町が見えた!」
「…あぁ、そのようだな」
三蔵に羽交い締めにされている頼華は、八戒の言葉に反応して三蔵にそう言った。三蔵と言えば、漸くか、とひとり心でニヤついていたのだが。
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「三蔵と頼華さんは先に宿に行っててください。僕たちは町を回ってきます。買い物もありますし。」
「え、私も買い物いきた「お前はこっち」」
「ちょ、玄奘…!!」
三蔵はひょいと頼華を俵抱きして、我先にと去っていった。
「ありゃあ、暫く部屋には近寄らねぇ方がいいな」
「あんな不機嫌極まりない顔されては戻れるものも戻れませんからね」
三蔵に抱えられていく頼華にご愁傷さま、と内心思いながら真っ先に食べ物に食らいついていた悟空を迎えに行った八戒と悟浄であった。