第51章 心癒場所(玄奘三蔵)
三蔵の目の前で悟空が瀕死の傷を負った。
相手への殺意で感情を塗りつぶされた三蔵は、その人物を探しだすために現場から走り去ってしまって。追いかけたかったけど、足が動かなくて。彼の心の闇が、彼に襲いかかっていると分かっていたのに。
残された悟浄と八戒は、一か八かの賭けで金鈷を外して悟空の斉天大聖の力を解放した。斉天大聖の力で暴走し始めた悟空を、八戒は傷だらけになりながらも止めてくれて。
私は、何も出来ずにただ、見ているしかできなかった。
あれから三蔵は戻ってきたけれど、暴走の止まった悟空を見て再び何処かに行ってしまった。
『お前はアイツらと一緒に居ろ。』
そう私の頭をひとなでして、去っていく彼に泣いているしか出来なかった。
「___、おい、頼華!」
「…え?」
「お前どうした?」
「ご、ごめん、何の話してたっけ」
「お前なぁ…」
今、私は悟空、八戒、悟浄と一緒にいる。三蔵は、どこに行ったのかなんて分からない。ちゃんとご飯たべてるかな、とか寝てるのかな、とか。そんな感情ばかり出てきて。
何を食べても味がしない。今、口にしたはずのものも味気なく噛み砕いて飲み込んだ。
「…三蔵のこと、心配だな」
「…悟空」
「心配なのは分かるけど、ちゃんとご飯食べねーと」
「…うん、そうだね。ありがとう悟空」
そうは言えども、今までずっと離れたことなんてなかった。小さい頃からずっと近くにいて、それが当たり前になって。父様が居なくなったあの日、も。
小さい頃に抱えていた、自分は半妖だなんて劣等感は三蔵のお陰ですっかり無くなっていた。血筋的には半妖らしいが、その力は全く0に等しかったから。だから三蔵の隣にいれるように、経典を覚えたりもした。
三蔵が、私にとって家族以上の存在になるには時間はかからなかった。
なのに、あの日のことが未だに悔やまれる。三蔵も、悟空も、私が誰も救えなかった、あの日が。
ねぇ、今あなたはどこにいるの?
何をしてるの?
あなたの闇を、明るく照らしたい。