第6章 その罪ごと(跡部景吾)
自分が生まれた家柄を気にしたことはあるだろうか。
私は自分の家柄を小さい頃は嫌いだった。公園で遊ぶ親子を、どれだけ羨ましく思っただろう。私は平凡な家庭で、ただ普通に過ごしたいとそう思っていた。しかし、それは家柄的には無理な話で。
極道─所謂ヤクザ、と世間一般的に呼ばれるその家で私は一人娘として生まれた。組長の娘だから狙われる確率が高いのだと、小さい頃から言い聞かせられ。
何処に行っても常に付き人がいて。
何時しかそれは、私に自分を守れるのは自分しか居ないと、根を生やした。
元々、負けず嫌いの性格からか武術という武術は全て嗜んできた。父の意向もあって、華道や茶道も嗜んで。
けれど、私にはそれを共有出来る友は少なく。唯一父の幼馴染である滝家、長男である萩之介だけは、私を家柄事理解してくれていた。
華道一家の滝家とうちの組は繋がりが深く、萩之介と遊ぶことも増えた。
氷帝中等部に上がって萩之介はテニス部に。私はといえば最初は部活なんて考えてもなかったのだけれど、萩之介の勧めでマネージャーになることにした。
入学式はそれはもう、衝撃的なもので。
彼、跡部景吾という男の子は、どうやらあの跡部財閥の御曹司らしい。テニス部を乗っ取った彼の居るその場の空気、雰囲気、全てがとても眩しく見えた。
でも彼は表の人間で。俗に言う、裏の世界の闇で育ってきた私とは似て非なるもので。決して近づいてはいけないと、思っていた。でも、世界は残酷で。
部活ではマネージャーと部長、クラスでは3年間同じという地獄が待っていた訳で。
3年では萩之介とはクラスが離れてしまった私は、絶望を覚えた。
家柄は決して萩之介以外には知られること無く、どこかの令嬢と周りは思っているのだけれど。おそらく、萩之介が言ったのかななんて。
跡部くんには絶対知られたくないと思った。
その時にはもう既に彼を好きになっていたのかもしれないけれど。
「龍ヶ崎、」
「あ、跡部くん」
偶然にも2人きりになってしまったこの部室内。どうやら他の部員は萩之介を含めて、まだ来ていない。3年間同じクラスで、部活でも2人きりになる事はどことなくあったけれど、それを私自身が避けていたからそれはなかった。何を話していいのやら、分からない。それを悟られまいとタオルとスポドリの準備をする。
