第40章 永遠に(跡部景吾)
”あの日”の秘密____ふたりだけのあの日の秘密を抱えたまま、卒業式を間近に控えていた。
『おめでとうございます、妊娠3ヶ月ですね』
”あの日”から月のものが訪れず、もしかして、なんてそう思って産婦人科に来ていた。病院だから、制服なんて目立ちすぎるから私服で勿論来ているのだけれど。
妊娠、している。先程先生に言われた言葉に、嬉しい半面どうしようという気持ちでいっぱいで。
そんな時に携帯が鳴った。
『 景 吾 く ん 』
そう表示されたディスプレイ。今日、ここに来ていることは誰にも言っていない。もちろん、お父さんにも十夜にも、景吾くんにでさえも。
お父さんと十夜には、景吾くんと出かける、と。景吾くんには、今日はどうしても外せない家の用事があるとそう伝えていた。
一瞬、電話に出るのを躊躇ったけれど未だに振動する携帯の通話ボタンを押した。
「…もしもし、」
「遅かったな。」
「あ、ごめんね」
「何かあったのか?」
なんて。言った方がいい、のかな。
「ったく、何で1人で来てるんだよ」
電話越しに聞こえたはずの声が、近くで聞こえた気がして。
俯いていた顔をあげればそこには、居るはずのない彼の姿。
「な、ん…どうして…?」
「どうしても会いたくなった」
「…っ!」
「家に連絡すりゃ、1人で出かけたなんて言うし…」
「…」
「…俺に言えばいいじゃねーか」
何も言えずに座るわたしの前に、彼はしゃがみ込んだ。
「…妊娠、してるんだろ?」
_______
今にも泣きそうな顔で俺を見る頼華。
たしかに俺は”あの日”、避妊なんて考えずに事に及んだ。誰にでも優しい頼華を、はやく俺だけのモノにしたくて。
彼女がすべてを押し殺してひとりで解決しようとしているのは知っていた。
昨日だって、俺とのデート中の彼女はどこか上の空だった気がしたから。
「いいじゃねーか」
「…え?」
「俺にも背負わせてくれよ」
そう言って頬を撫でれば、彼女の頬に一筋の光が流れて、小さく頷いた。