第3章 20センチ 【時透 無一郎】
また空を見上げながら歩いている
あどけない顔に長い髪、隊服を着てなければ女の子に見える彼を見つめた
たまに見かける彼に私が興味をもっている訳は、空ばかりを見て歩くので必ず同じ所でつまずくから
今日も気になりじーっと見ていたら振り向かれ、目が合った!と思った時には私の目の前にきていた
目の前っていっても私は上背があるので、肩の辺りから上目遣いでじとっと睨まれた
「あんた、いつも見てるよね…そのお面で気付かれないと思った?」
もう一歩踏み出そうして時透さんは足を止めた
「…あんた、ただの刀鍛冶の里の人間じゃないんだね、なにをまとってるの?」
体の中心から50センチは結界が張ってあり、強い鬼ほど私の間合いには入ってこれない
それをたった一度踏み込んだだけで気付くとはさすが霞柱だ
「鬼殺隊が刀で鬼と戦うなら、私は鬼を封印する陰陽師の末裔です」
1000年以上続く陰陽師…枝分かれして数ある流派の中の1つ葛野一族の最後の生き残りが私だ
血が薄くなり力は余り無いけれど、私が鬼に殺されれば私の先祖が代々封印してきた鬼達の結界は消滅してしまう
1000年前に絶大な力を誇っていた二大勢力が結集して作りあげた
未来まで続く各流派の当主のみに発動される強力な結界
15歳になった日に突然その結界が発動して、兄でも弟でもなく私が結界に葛野家の当主だと選ばれ守られている
「なんで里にいるの?」
「私の一族は、皆さんが産まれた時から持っている幸運を少しだけ調整して、使われるべき時に多く使える手助けをするんです。だから最後に御祈祷をして、鞘に納める仕事をしてます」
「なら…あまり役にはたってないよね」
皆にならってお面をつけてて良かった、私はきっと泣きそうな顔をしているはずだ
遠い昔なら上弦の鬼ですら封印したこともある葛野一族なのだが
今の私はせいぜい下弦を封じ込めるのが精一杯だろう
言いたい事を言い終わると時透さんはすたすたと歩き去っていった