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かわいいひと

第16章 露草の消ぬべき恋も【宇随天元】




「峰緖(みねお)」


背後から呼ばれた そこには大好きな幼なじみがいる

修行場からは少し離れた深い森の奥にある崖の広い窪みに峰緖は座っている この場所を知っているのは峰緖と教えてくれた宇随天元だけだった


「どうしたんだ?」


膝を抱えて座る峰緖の隣に宇随はどかりと胡座をかいて座り 峰緖の顔にかかった髪を耳に掛けた

ようやく峰緖の顔が見えたのだが彼女は泣いていて理由は分かっていた


15歳になり嫁を取れと父親が嫁候補を連れてきたのが3日前だった 11歳の子供までいたのには驚いたが…
この事を峰緖は知ったんだろう




峰緖とは幼なじみから恋人になっていた
父親は女は子供を産む役割としてしか見ていない 愛情は任務の邪魔になるだけと思っているから宇随は細心の注意を払い峰緖との仲は隠していた

峰緖とは回りから見えない この崖のくぼみでしか逢っていないし
峰緖を抱いた後も獣を狩りその血の匂いで情交の残り香を消していた


だから同い年で上忍の家系でくノ一としても優秀な峰緖が嫁候補に上がると思っていたし そうなるように峰緖も修行を頑張り任務も完璧にこなしていた

それなのに嫁候補から外れた


理由は優秀だから…だった


「11歳?地味に子は産めねぇよな?もっと歳が近い派手な女がいるだろ」


難色を示したが

「この娘は忍としては使えない だから初潮がきたら孕ませればいい それまでは女中にでも使え
峰緖の事か?あいつは使えるからな今 子供を産ませるのではなく くノ一としてもう少し働かせる それからお前の弟にでも嫁がせる」

そう言って父親は自室に入った
忍に情は不要だと…ただ強さだけが必要だと思っている父親に 峰緖に対しての執着を知られる方が恐ろしくてそれ以上は何も言えなかった







頑張ったから嫁候補から外れた

そんな事を峰緖に伝える事はできず 宇随は峰緖を抱きよせ口付けをした

いつもなら柔らかな唇は宇随の熱を奪うように峰緖の方から深くなるのに涙で少し冷たい唇は固く閉じられたままで宇随は困惑した



「ごめん…勝手にヤキモチやいてるだけ」


プイッと顔を反らした峰緖の白い首筋に唇を寄せる


「俺の心臓は派手にお前のもんだ」


忍として生きている今は掟と当主には逆らえない

それをお互いよく分かっていた


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