第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
いつもならまだ雪も積もらない時期なのに今年は寒気が強く山には雪が深く積もっている
夜明けにはまだ早いが足元は月明かりが雪に反射して歩きやすい
獣道から人の歩く山道へ出る…と先に誰かが歩いた足跡がついていた
その足跡が暫く歩くと消えている…不信に思い引き返すと途中で右に曲がった跡がある
「?」
嫌な感じがして冨岡も右に曲がると
大きな木の根元がこんもりと丸く雪が積もっている
雪を払うとその下から紺色の男物の着物が現れて痩せた子供が浅い呼吸で気を失っていた
藤の家紋の屋敷には昨日から世話になっていて
「冨岡様お帰りなさいませ…」
背中に子供を背負った姿の冨岡を屋敷の主人が出迎えた
「医者を呼びにいきますかな?」
長年藤の家紋の屋敷の主人として世話をしているから対応も早い
「怪我はないが体が雪の様に冷たい」
ふわり と空気が動き顔を上げるとそこには宇随が立っていた
「低体温だな…手足の指が凍傷になってないといいな」
風呂に入っていたのか浴衣姿で髪は濡れている
「風呂に連れていく」
てちてちと歩く冨岡を宇随が止める
「派手にバカだな…こんだけ体が冷たいのに湯に入って血行が良くなったら一気に心臓に冷たい血が流れて反対に心臓発作を起こすんだ!まず濡れた着物を着替えさせて布団に寝かせる!
そしたら人の体温でゆっくり温めんだよ!先に俺様が温めるからお前も風呂に入って体を温めてこい!」
冨岡が背負っている子供をひょいと抱えて主人と共に歩いていった
「新しい浴衣と体温より少し熱めの湯たんぽと…
冨岡と交代しながら温めるから布団もあと二組俺の部屋に用意してくれ」
宇随は主人にテキパキと指示を出して部屋に入った
顔は白く唇は赤紫色になっている、十分な食事もとれてないのだろう着物ごしに触れる体はかなり痩せている
清潔な浴衣を主人がすぐに持ってきて宇随に渡し
「火鉢をもう1つ持って参ります」
と言って出ていった