第8章 願わくば花の下にて 【鬼舞辻無惨】
私の体は強くなった…が、人では無く「鬼」と呼ばれる者になっていた
京の雅な時代から、武士の時代へと移り私は京から離れ流浪の身となり夜を彷徨う…
ある日の夜食事をしに町を歩く
懐かしい花を見つけた
忌まわしい…が焦がれる藤の花の咲く季節が来たのか…
弥世が好きな花だった…今となれば触れる事も出来ない花
藤の花が咲く木の下に少女が立っていた
恐らく男の体を知らず肉も柔らかいのだろう
この頃の私は、女は食べる前に抱いて深くつながり夢現の間に食べる事にしていた
忌々しい花のせいで近づく事ができないこの少女は諦めるか…と踵を返した時にあの心地いい声が鼓膜を震わせた
「お久しぶりでございます」
振り返ると……あの可憐な弥世が立っていた
あと数歩なのにそれ以上弥世に近づく事が出来ない
「弥世、近くに来い。今の私にはこの藤の花が毒となる…」
側に来た弥世に手を伸ばし幻では無いことを確認する
「なぜ…お前は生きている?」
「生まれ変りです…主様に初めてお会いした15歳の時に記憶が目覚めました
逢いたいと焦がれ16歳で家を出て、ただ北極星を見ながら歩いていたら…
この藤の花に出会いました
主様を呼んで下さると藤の花が言うのでお待ちしていました」
「藤の花が?」
「はい…一度だけ声が聞こえました」
『お前の思い人はあれから一度も死なず人では無くなっている
それでも逢いたいのなら私が満開になった頃に呼んでやろう』
忌々しい花だが、弥世と逢わせてくれた礼がわりに
この花の近くでは人を襲わないと誓った
今日の食事は止めにして、弥世を今の私の屋敷に連れて帰り肌をかさねる
あの頃と変わらない肌の温もりと感触、歓喜の声に私は夢中になった
このまま永遠に弥世と生きていく夢を見て、彼女がもう少し大人になった時に私の血を与える事に決めた
だが、2人目の弥世は私の血に耐えられず命を落とした
不思議な事に弥世は生まれ変り、藤の花の下で何度も巡り会う
5人目の弥世まで私の血を与えてみたが、願いは叶わず弥世は私の腕の中で死んでしまった