第8章 願わくば花の下にて 【鬼舞辻無惨】
私が初めて出会った弥世(みよ)は私の屋敷の使用人だった
物静かな可憐な少女で、病弱な私の我が儘に懸命に答えようとして、出来た時には花がほころぶように控えめに笑い、出来ない時には鼻を赤くして泣いている
身分の違いあったが私は弥世を好いていた
弥世が薬の煎じ方を間違えて、ものすごく苦い薬湯になっているのを毒味役が気付き、私の目の前で殴られ蹴られて庭に転げ落ちた
「私は大丈夫だ…弥世、もう一度作り直しておいで」
「なんと!この娘は毒を盛ったのかもしれないのですよ!」
私の毒味役は顔を赤くして怒っていたが、そんな些細な失敗など日頃弥世が私に見せる可愛らしさと秤にかけると些末な事だ
「弥世…お願いするよ」
私が言うと、弥世は笑顔で 「はい」と答え台所へと下がって行った
あぁ…なんて可憐な少女なのだろう
彼女が笑うならどんな苦い薬湯でも私は喜んで飲むだろう
この日の夜はとても寒く布団を重ねても体が震え眠れなかった
いつも側に控え、私の体調を気遣っている弥世には私の歯が寒さで震える音が聞こえた様で
少し熱目に入れた白湯を持ってきた
飲み終ると弥世が布団の中に入り私の体に身を寄せる
弥世の体は柔らかく、温かく、甘くて、私は夢中で弥世の体を求め深く探りあい
心が同じ思いだったと知り
弥世は命が消えるまで側にいると私に誓い
私も命がある限り弥世を側におくと誓った
ある日、弥世が兄上の道楽の為に何日か屋敷を留守にした時に全てが始まった
ただ、側に弥世がいない
それだけの事だったが、一向に回復する様子もない体にイライラがつのる
あの笑顔と可愛らしい声が聞こえないだけで、私の怒りは溢れ憎悪となり目の前の医師を殺してしまった
その事実を知っても弥世は可憐な笑顔で変わりなく私の世話してくれた
しばらくして私の体が作り変えられ、鬼の始祖としての土台が出来上がる事になる
夜にしか活動は出来ず、人間を食べるようになった私の変化に弥世は驚きはしたがそれでも私を愛してくれた
私は弥世と深く結ばれ幸せな日々を送っていたのだが…
1人目の弥世は23歳の時に流行病にかかり呆気なく私の側から居なくなってしまった