第7章 匂いに酔う【竈門 炭治郎】
「禰豆子ちゃん…夜になったら散歩に行こうね」
禰豆子が残る事が分かった途端に善逸は「あっ、炭治郎またな!俺は夜の散歩の為に今のうちに沢山眠っておく」とか言って布団に潜り込んでしまった
「と、いう訳で俺だけです」
そう前を向いて話す炭治郎の後頭部を見ながら、美桜は炭治郎が家に来るのがあの日告白を受けてから初めてなのだと気付き胸がざわめく
そんな美桜のドキドキを匂いで気付いている炭治郎は美桜と同様に顔が赤くなり振り向けないでいた
「そうだ!美桜さんの所は岩柱の悲鳴嶼さんの屋敷も近いんだよね…稽古つけてもらおうかな…」
「悲鳴嶼さん知ってるの?」
「…御館様の所でちょっとだけ見たくらいかな…」
そんな苦し紛れの話で二人きりの生活が始まる照れくささを紛らわしながら美桜の家に向かった
途中の町で買った荷物を下ろし、美桜は夕飯の支度へ炭治郎は風呂の準備をしにそれぞれが働いた
風呂に水を入れ火を入れてから、いい湯加減になるまでは大体1時間くらいかかる
炭治郎は美桜のいる台所にむかった。
「お風呂の準備は大体終わったよ。後はなにか…」手伝う事はある?と言葉をつなぎたかったができなかった
美桜は馬に乗っていた時の袴と着物は脱いで着替えていた。薄い橙色の木綿の着物に白の割烹着を着て、料理をするのに簪1本で簡単に結い上げた琥珀色の髪が一房落ちて、夕陽にあたり黄金色に輝き揺れていた
美桜さんは本当に綺麗だ…
ご飯が炊き上がったらしく、火を落とすために腰を落とした美桜の女性らしい丸みのある後ろ姿を見て、炭治郎は昼間の美桜の柔らかな体の感触がよみがえり鼓動が速くなる
思わず吐き出した、ため息が美桜の耳に届いた
「…炭治郎くん疲れた?もうすぐで完成だから後少し我慢してね」
ホワホワと美桜に見とれてため息をついた炭治郎を、疲れのせいだと勘違いをした美桜が微笑むから炭治郎は「はい我慢します」と笑って答えた
食事も終わり、一緒に片付けをして「美桜さんが先にどうぞ」と、炭治郎がいうので先に美桜が湯浴みをすませた
炭治郎が風呂へと行った間に美桜は客間に褥の準備をして、少し早いが蚊帳を張った
町とは違い美桜の住む麓では少し暖かくなると虫が多くなる
客間の蚊帳を張り終え、踏み台を持って自分の部屋へと向かう為襖に手をかけた