第5章 恋に落ちる【不死川玄弥】
あっ!あの後ろ姿は玄弥に間違いない
瑞穂(みずほ)はその後ろ姿に向かい駆け出していた
足音と呼び掛ける声色で、誰が呼んでいるかは分かったようで鋭かった目付きが柔らかくなった
「玄弥!」
ぴょんぴょんと跳ねながら風のように走る姿がウサギのようで、玄弥は思わず笑ってしまった
そしていつもの様に最後は突進してきて玄弥に抱きつく
抱きついて玄弥の胸元までしかこない頭を上から眺めていると、玄弥の匂いを何度か吸い込んだ瑞穂が顔を上げる
「瑞穂…」
「久しぶりだね」
隠である瑞穂は唯一見えてる目元を細める
玄弥はそっと帽子と顔を隠している前掛けを外して頬に唇を寄せた
一年前の瑞穂は風の使いの隊士で長い髪を風になびかせて鬼を斬っていた
風柱が2人になるのではと瑞穂を知っている隊士達はそう思っていた
ある町で鬼同士の縄張り争いがありその度に傷と体力の回復の為に人々が襲われている
複数の鬼が居る事は分かっていたので、階級も高い瑞穂と悲鳴嶼が出陣し、この時に玄弥も同行していた
この時初めて瑞穂の戦いを見た玄弥は、風をその身に宿し舞うよう日輪刀を振るう瑞穂に一目惚れをした
最後の一匹の首に刀を振り落とす瞬間
「止まれ!瑞穂!」
空気をも震えさせる怒号と共に悲鳴嶼の得物が瑞穂を捕らえた…
と、思ったが瑞穂の刀が鬼の首を斬り落とした方が僅かに早かった
首を斬り落とされた体からは血が吹き出し瑞穂の全身を赤く染める
瑞穂が斬った鬼は血鬼術によって鬼もどきにされた人だった
それ以来瑞穂は鬼を前にしても技を出せても首を落とす事が出来なくなる
ある日ふらりと滝の側で修行をしていた玄弥の所に現れた瑞穂は、白い羽織を頭から被りなんとも妙な格好をしていた
「瑞穂さん?どうしたんですか」
羽織を取ると、瑞穂の黒く艶のあった美しい髪は散切りにされていた
「私の髪を切ってくれない?」
羽織を手に動けない玄弥の胸に手を伸ばして
「玄弥に切ってほしい…」
瑞穂は玄弥に抱きつき言った
「なんで俺の所に?」
「……好きだから」
悲鳴嶼さんの隣で必死で戦う玄弥の姿に瑞穂も恋をしていた
「背が高いのも好き…体格も好き…優しい所も好き…」
全部…大好きなの