第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
「あ、汐さん。こんにちは」
「こんにちは、すみ。元気?」
汐が尋ねると、すみはにっこりと笑いながら返事をした。それを見た煉獄もつられて笑顔になるが、彼女は彼の存在に気づかないようだった。
「炭治郎さんでしたら、昨日から任務に出ていますよ。でも、先ほどもうすぐ着くと連絡がありましたから、もうすぐ戻られるかと」
その言葉に煉獄は『それはよかった!!』と大声で叫び、汐は思わず身体を震わせた。
「汐さん?どうされました?」
「え?な、何でもないわよ。でも、いい時期に来たわね。ところで、他の馬鹿二人の姿がないけれど、あいつらも任務?」
汐の言葉に、すみは少しだけ苦笑いを浮かべるとうなずいた。
「わかった。じゃあ炭治郎が戻るまで待たせてもらってもいい?」
「はい!きっと炭治郎さんも喜ぶと思いますよ!」
すみの言葉に汐の頬が微かに染まり、それを見た煉獄は何とも言えな気持ちになった。
『大海原少女。元気なのもいいが、仲間を馬鹿呼ばわりするのは感心しないな』
「あ、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないのよ。でも駄目ね。あたしの悪い癖。いい加減に直さないと」
汐はそう言って小さくため息をつき、煉獄と並んで縁側に座った。