第4章 『約束』は頷くべからず
「綺麗だな」
隣に寝転んだ薬研様が私の髪を鋤く。
指が通る感覚が心地よくて目を閉じた。
未だ息の整わない状態の私とは違い、何事もなかったかのようにしれっとした顔をしていた彼。
それでも…
下腹部に残る疼く様な違和感や、どろりと流れ出る薬研様の熱が先程までの生々しさを表している。
「あんたは無防備過ぎるな」
呆れたような顔で薬研様が言った。
「そう…でしょうか?買われた身なので抵抗も無意味かと…。痛いのは嫌ですし…」
私が答えれば、また「フッ」と悲しそうに笑う。
「痛いのが嫌なら1つだけ覚えておいてくれ」
「…はい」
「出陣帰りの男士には近づくな。気が立ってる奴が多い。手荒く抱かれるだけで済むならいいが、殺されかねん」
「殺…され…」
「あぁ、気を付けな」
「わ、分かり、ました」
「後な…」
薬研様の言葉は続く。
「本来なら短刀と脇差しは相手にしちゃいけない決まりなんだ」
「…たんとう?わきさし?」
私が首を傾げれば、「知らないか…」と、薬研様が自分の脱ぎ捨てた服から何かを取り出す。
「こいつが俺っちの本体だ」
「本体?」
「あぁ。刀だ。意味がわからんかも知れないがこいつが俺なんだ」
「この刀が薬研様…」
「そうだ。たぶんあんたが知ってる刀ってのは腰に差すやつだろ?だが、俺達短刀は懐や着物の帯の間に挟んで持ち歩く懐刀。守り刀だ 」
「守り刀…」
「そうだ。大将が決めた決まりだから俺はあんたの相手にはなれないが、あんたを守る刀になるぜ。何かあったら頼ってくれ」
相手になれないという言葉に引っ掛かりも覚えたが、それよりも、そんな風に言ってもらえた事がすごく嬉しい。
「頼って…よいのですか?」
「当たり前だ」
ニカリとした笑顔を見せて、
わしわしの頭を撫でられた。
見た目は年下なのに…
振る舞いはうんと年上だ。
「腹へったろ?あんたは着替えて朝餉に行きな。俺は大将のお説教をくらってくる」
「お説教…」
「あぁ。ほら、来たぜ」
薬研様の言う通り、ドタドタと誰かが走ってくる音がする。
「やーげーんー!!」
足音と共に聞こえるお怒りの声はどうやら審神者様のようだ。