第6章 蝶々結びの秘め事《共通ルート》/ ♥
────合図は蝶々結び
結ばれた組紐が部屋の前に落ちていたら…
それはあの人からの合図。
今夜、部屋に行くよと。
そして…私を抱くよ、と。
そういう合図だ。
それを、私は拒めない。
何故、拒めないのだろう。
嫌なら逃げればいいのに……
私はあの人の目を見ると動けなくなる。
どこか悲しい──……
切なげな視線に捕らえられてしまう。
ねぇ、秀吉さん?
どうして、私を抱くの?
そこに…気持ちはあるの?
今日も何も解らないまま、
部屋の外に落ちている組紐を拾う。
そして、私は全てに抗えないまま、
また熱に溺れるのだ───………
*****
「あ……」
夕刻、部屋で針子仕事に勤しんでいた私。
途中で喉が渇いて水でも飲もうと、廊下に出てみると……
部屋の前に置かれている、見慣れた『蝶々結び』を見つけて、小さく声を上げた。
翡翠色の組紐で結ばれた、蝶々結び。
それは……
これから起こる『ある時間』の訪れを示唆するものだ。
(────今夜、秀吉さんが来る)
そう思ったら、急に鼓動が駆け足になった。
早めに湯浴みに行って、部屋を整えておかなきゃ。
そして、私の部屋には誰も来ないように…
女中さんにも、また話しておかないと。
それを思うだけで、息が荒れだして。
急に身体が熱を帯びて、火照った気がした。
この蝶々結びは『合図』だから。
今夜秀吉さんが私の部屋に来るって言う。
そして───………
私を抱くよって言う、合図。
「…っまた、私……」
以前そうされた時の記憶が蘇り、恥ずかしくて思わず手で顔を覆う。
鮮明に刻み込まれている、その記憶は……
消してしまいたいのに、頭から消えてはくれない。
その指や唇の感触。
囁かれる吐息混じりの甘い声。
そして…身体に注がれた熱も。
全て鮮やかに思い出すことが出来る。
そして、与えられてトロトロに蕩けた自分も。
本当に…恥ずかしくて、忘れてしまいたいのに。
でも、私は秀吉さんを拒めないのだ。
与えられる熱に……
抗う事が出来ない。