第1章 徴集
あのひとが戻ってきても、私の罪は無かったことにはならないのか。背負う十字架は消えはしないのか。それでも、そうだとしても、私はあのひとを取り戻す。あのひとのいない世界よりずっと良い。ならば、やるべきことはひとつだけ。ぐっと閉じた目をゆっくりと開く。
「……説明はそれだけですか?そろそろ移動したいんですけど」
時の政府の男をまっすぐ見つめる。正面から見たのは初めてかもしれない。思いの外ひとの良さそうな顔つきをしているが、視線は冷たいままだ。
「ご理解の早い方で本当に助かりますよ。それでは戻りましょうか」
無言でひとつ頷くと、先を行く男の後を追う。行きよりもおそらくは遠回りで帰っているのだろう。あちこちの角を曲がり、いくつものドアを通り抜ける。初めて来たのだから間取りも何もわかるわけがないのに、念には念を、というヤツらしい。いい加減方向感覚すら怪しくなってきたころ、またT字路の突き当たりの部屋へと出た。ドアを開けると清光がいる。
「…主、準備できた?」
「ええ、清光。これでどうかしら?」
「うん、綺麗だよすごく。それじゃ行こっか」
「ええ。よろしくね、清光」
「任せてよ、主」
どこかほっとした表情で駆け寄る清光の頭をもう一度撫でて歩を進める。無駄に大回りをして声紋認証だの静脈認証だの網膜認証だのでしか開かないドアをいくつも通り過ぎて来た所は、どう考えても室内なのにどう見ても大きな門にしか見えないナニかだった。
「それでは本丸へのゲートを開きます。審神者様はこちらに手のひらを翳してください」
よく見ると門の脇に小さなタッチパネルがある。手のひらを翳してみると、ゆっくりと門が開いた。が、中はTVの砂嵐のような画面が広がっているばかり。
……ここに、入るのだろうか……。
「どうしたの?主、行かないの?」
ほら行こうよ、と清光に手を取られ心の準備もできないまま一歩踏み出せば、ふわりと一瞬宙に浮く感覚が。しかし、それも一瞬のことで気づけば目の前にやたらと立派な日本家屋が鎮座していた。