第1章 徴集
「…主、準備できた?」
「ええ、清光。これでどうかしら?」
「うん、綺麗だよすごく。それじゃ行こっか」
「ええ。よろしくね、清光」
「任せてよ、主」
それはこの本丸の始まりの日に交わされた言の葉。
世の中には、一般的には知られていない職業が数多ある。その内の一つに「審神者」というものがあるらしい。らしい、というのは正しくはないか。私は今からその「審神者」というものになるそうだから。私は死刑囚だ。罪状は殺人。両親と兄妹、兄嫁と産まれたばかりの甥を殺した。私からすれば殺されて当然の家族だが、世間様からはそうは見えなかったらしい。殺したことをあっさり認めたら、あれよあれよという間に死刑が確定した。別に惜しい命でもないけれど一度くらいは何者にも搾取されない自由というものを謳歌してみたかった、なんて漠然と思いながら刑が執行される日を待っていたら、ある日見知らぬスーツ姿の男が面会にやってきた。本来死刑囚である私には面会が許される人物などもう存在しないはずなのに。
「はじめまして、私は時の政府の者です。貴女の量刑が変更されたのでその告知と説明のためここに来ています」
その男は眼鏡の奥を冷たく光らせながら、淡々と続ける。
「量刑の変更とは言え、死刑でなくなった訳ではありません。貴女の刑は確実に執行されます。ただ少し延期になりました」
男の口から意外な単語が転がり出た。
「そして、延期中に懲役が課せられました。貴女には、審神者になって時間遡行軍と戦うという懲役が課せられます」
知らない単語がいくつも出てきて呆気に取られている間にも男の説明は続く。
「これは国民のほとんどが知らない事ですが、我が国は今、戦争状態にあります。歴史を都合良く改変しようとする歴史修正主義者が歴史への介入を始めたのです。ここまでで何か質問はありますか?」
何を素っ頓狂なホラ話をと思ったが、目の前の男は至極真面目に話している。ここは百歩譲って本当だとして、ふと気になった事を聞いてみた。
「歴史を変えようとして、実際何が困るんですか?それと私の死刑執行が延期になったのと、どう関係あるんです?」