第10章 【アンブリッジ】
クリスの隣に座っていたハーマイオニーが、ツンとした態度で呟いた。
まさかと言うか、流石と言うか、ハーマイオニーは先ほどのアンブリッジの演説を真剣に聞いていたのだろう。彼女の機嫌の悪さがそれを実証している。
向かいに座っていたロンが驚いた顔をしていた。
「君、まさかあんなクソの役にも立たないものを全部聞いてたの?」
「あら、クソの役には立ったわよ。それどころか大収穫」
「なにが?」
「例えばそうね。『試練を受け、証明された伝統は手を加える必要がない』とか、その反対に『恒久的なものと変化、伝統的なものと革新的なものの導入』とか」
「どういう意味?」
「つまり、あの女は魔法省に都合の良いものだけを取り入れ、それ以外は排除しようとしているのよ」
ロンが大声を上げそうになったので、ハリーとクリスは慌ててロンの口をふさいだ。ハーマイオニーはまだ何か考えているようであったが、ダンブルドアが最後の締めとしてそれぞれ好き勝手な校歌を歌わせると、始業式が終わり皆ガヤガヤと騒いで席を立った。
「話しはまた後よ。ロン、1年生の道案内をしないと」
「そうだった――おーい!そこのガキ共!!」
その乱暴な口調に、ハーマイオニーが素早くロンを注意した。ロンはブツブツ文句を言っていたが、威厳たっぷりに1年生を引率するハーマイオニーと一緒に、一足早く大広間を出て行った。
残されたハリーとクリスは、互いに目くばせすると、お互い何も言わずに大広間を後にした。
今までだって2人きりになった事など山ほどあるのに、始業式にロンとハーマイオニーが1年生を引率していったというだけで、どこか変な感じがする。
胸にモヤを抱えたまま4階の『太った婦人』のところまで行くと、その時初めて新しい合言葉を教えて貰っていない事に気づいた。
「合言葉は?」
「あ~……えっと、その……」
合言葉を言えずに立ち往生していると、廊下の向こう側からネビルが走って来た。丸くてぷにぷにの頬が紅潮して、嬉しそうに笑っている。
「合言葉なら僕が知ってるよ!これだけは絶対に忘れない。『ミンビュラス・ミンブルトニア』だ!」
「その通りよ、坊や」
『太った婦人』の肖像画が開き、談話室に入ると、円形の部屋に設置された懐かしいふかふかのカーペットと明るい暖炉に「帰って来た」と言う実感が持てた。