第10章 【アンブリッジ】
「ホグワーツ創設以来、魔法省は若い魔女や魔法使いの育成に非常に力を入れてきました。これは誰もが生まれ持ってくるものではない特別な才能を、若い内から正しい方向に導き、大人としてより良い人生を歩むための第1歩としての大切なモラトリアム期間だと考えているからです。然るに――」
あぁ、これ以上は聞いていても意味が無いと判断したクリスは、アンブリッジから視線を背けると左腕で頬杖をついてボーっと天井を眺めはじめた。
何かと口煩いチャンドラーに長年鍛えられてきたスルー能力によって、アンブリッジの演説は楽々に右から左に聞き流す事が出来た。
クリスが頬杖をついたまま半分ウトウトとしていると、同じくアンブリッジの演説に耐え切れなくなったのか、ハリーがクリスに話しかけてきた。
「ねえクリス。1つ聞いても良いかな?」
「なんだ?」
「その腕輪ってどうしたの?夏休み前にはしてなかったよね?」
「ああ、これは……ダンブルドア先生からもらったんだ。私の――『闇の印』を封じるために……」
正直に話すと、一瞬、ハリーがバツの悪そうな顔をした。そんな雰囲気を払拭させようと、クリスはわざとあっけらかんとしてみせた。
「まあ、見たくないものを隠してくれるんだから、私としては好都合だな。それに中々オシャレだろう?その上本物のゴブリン製の銀の腕輪だ。換金したら幾らになるだろうな」
「ははは……良いね。僕も傷を隠してくれる物があったら良いんだけど……」
「ダンブルドアに頼んでみたらどうだ?」
「……無理だよ」
「どうして?」
「ダンブルドアは……あんまり僕に関心ないみたい」
そんな事ないと言いたかったが、ハリーの深く傷ついた顔を見て、クリスは何も言えなくなってしまった。
程なくして、アンブリッジの演説が終わったのか、ダンブルドアが満足げ拍手をし、それに合わせるように数名の教職員と数少ない生徒がおざなりの拍手をした。
それをきっかけに、生徒たちはまだ始業式の最中だという事を思い出し、再びお喋りを止めダンブルドアを見つめた。
「まことに啓発的な演説、ありがとうございましたアンブリッジ先生。では先ほど話していたクィディッチの代表選手選抜だ――」
「本っ当、啓発的な演説でしたこと」