第9章 【結束の歌】
ハリーはショックを隠し切れないでいる。しかしいつまでもホームに立ち止まっているわけにはいかない。
ハグリッドの事は一先ず置いておいて、5人はホームを出た。
ホグズミード駅はホグワーツの生徒でごった返しており、“馬なし”の馬車が100台近く並んでいる。いつも通りそれに乗り込もうとした時、ハリーがボーっと馬車の先端を見ているのに気づいた。
「何しているんだ?ハリー」
「何って……こんなの、前からいた?」
「こんなのって、何の事だ?」
「だから、これだよ!これ!この変な動物の事!!」
「……何を言っているんだ?」
ハリーは馬車の先端に出た2本の長い棒の間を指した。が、そこには何もいない。
本来なら馬がいるべき場所だが、ホグワーツの馬車に馬などいないのは前からの事だ。最初はふざけているのかと思ったが、ハリーの眼は真剣だった。
「この馬みたいな生き物!これが何なのかって言ってるんだ!」
「ハリー、頭は大丈夫か?これが何本に見える?」
クリスは試しにハリーの目の前で指を2本立ててみせた。そんな事をしている内に、ロンとハーマイオニーが人ごみをかき分けてやって来た。
2人とも、なんでさっさと馬車に乗らないのか不思議がっていた。
「寒いんだから、早く乗ろうよ」
「ちょっと待ってよ、ねえ、2人なら見えるだろ?この馬みたいな生き物」
「馬……みたいな生き物?」
「なんの事?」
ロンもハーマイオニーも、いったいハリーが何を言っているのか分からないと言う風に首を傾げた。ハリーはイライラしながら、馬車の棒と棒の間を指して怒鳴った。
「だからあれだってば!!あの、真っ黒でコウモリみたいな翼が生えてる馬みたいな生き物!見えるだろ、ほら!!」
「見えるって……何が?」
「――えっ?嘘でしょ、まさか……」
誰もふざけてなんていないと分かると、ハリーは突然困惑した顔を見せた。目を大きく見開き、何か言いたそうに口をパクパクしている。
すると、どこからともなくルーナが現れて、ハリーにこう囁いた。
「あたしには見えるよ、大丈夫。あんたはあたしと同じくらいまともだから」
その慰めになるのか分からない言葉に、ハリーは複雑な顔をしてみせた。