第9章 【結束の歌】
『闇の皇帝』と聞いて、今度こそドラコの表情が変わった。クリスは鋭い視線と冷たい笑みを浮かべ、ドラコの手を振りほどくと追い打ちをかけた。
「もう一度言う、失せろドラコ。もっとも、『闇の皇帝』の跡取りになる勇気があれば別の話だが」
「……フンッ!そんな強気でいられるのも今の内だぞ。――忠告しておいてやる、負け“犬”の遠吠えは見苦しいだけだ」
その時、ハリー、ロン、クリス、ハーマイオニーの表情が一瞬凍った。「負け“犬”」と、確かにドラコは“犬”と言う単語を強調していた。
それがシリウスを暗示しているのかどうかは確かめる隙も無く、ドラコはクラップとゴイルを連れて素早くコンパートメントを出て行った。
もしドラコがシリウスの正体に気づいていたらどうしよう。ルシウスおじ様が、ホームでシリウスの姿を見てドラコに教えていたら――。
不安が胸のに重く圧し掛かったが、ネビルとルーナの前で下手な事は言えない。結局、何も相談できぬまま、列車は進み、ホグワーツへと向かって行った。
それから何度かロンとハーマイオニーが巡回の為、コンパートメントを出入りした以外、誰もクリス達のコンパートメントの扉を開ける者はいなかった。
陽も落ちはじめ、辺りが暗くなると、みんな着替えて降りる準備を始めた。
いよいよ列車が駅に近づくと、監督生のロンとハーマイオニーは降りる支度をする生徒達の監督役としてコンパートメントを出て行った。
列車のあちらこちらからガヤガヤと音がして、列車がホームに着くと、みんな一斉に外に出た。生憎天気が悪く、月も出ていない暗いホームには吹き荒ぶ風が身に染みた。
「ハグリッドはどこだろう?」
ハグリッドは、毎年1年生の引率をしている。その姿を見付けようとハリーが背伸びをしてキョロキョロ辺りを見回した。いつもなら駅に着いた瞬間「イッチ年生はこっちだ!イッチ年生……」と湖の方から声が聞こえるのに、今回は聞えてこない。
不思議に思っていると、ハグリッドの代わりに甲高い女性の声で「1年生はこっちだよ、1年生!!」と聞こえてきた。
「誰だ?あれ」
「グラブリー・プランク先生だよ!!去年ハグリッドの臨時として『魔法生物飼育学』を教えていた先生だ!」