第8章 【悪夢】
ウィーズリーおばさんは子供たち全員を抱きしめると、目に涙を浮かべた。
最後におばさんがハリーを力いっぱい抱きしめてから放すと、今度はシリウスが後ろ脚で立ち上がり、最後の挨拶とばかりにハリーの肩に前脚をかけ顔を舐めた。
「シ――スナッフル!何をしているの!?」
しかしおばさんの声は、出発を知らせる汽笛にかき消された。みんなが慌てて列車に乗ると、ガタンと音を立てて列車が動き出た。それに並行する様に、シリウスが走って列車を追いかけた。それを見て、ホグワーツ生が笑っている。
結局、シリウスは列車がカーブを曲がり、姿が見えなくなるまで尻尾を振ってホームに佇んでいた。
「無茶苦茶だわ、シリウスってば!バレたらどうするつもりなのかしら!?」
「良いじゃないか、ちょっとくらい。長い間あの不気味な屋敷に閉じ込められっぱなしだったんだから」
ハーマイオニーがウィーズリーおばさん同様、顔を真っ赤にするとロンが窘めた。
もうこのやりとりを見るのは何度目だろう。まるでウィーズリー夫妻を見ている様だと、密かにクリスは思ったが、きっと指摘すると怒られるだろうと思い、口は閉ざしておいた。
「さて、俺達はリーのいるコンパートメントに行くぞ。じゃあな」
そう言うなり、フレッドとジョージはトランクを持って通路の奥へと消えていった。
残されたクリス達も、空いているコンパートメントを探そうとトランクを持った。その時だった、それまでいがみ合っていたロンとハーマイオニーが急に互いの意見を交わす様に目配せをし合った。
「あの……その、えっとね、私とロンは……その、監督生用の車両に行く事になってて――」
視線を逸らしながら、ハーマイオニーが歯切れの悪い言い方をした。ロンは何も言わずただ下を向いている。ハーマイオニーが何を言わんとしているのか、クリスもハリーもピンと来た。
「ああ、OK、分かったよ」
「でもねっ、ずっとそこに居なくちゃいけないわけじゃないと思うの!手紙では男女それぞれの主席から指示を受けて、時々車内を見まわるだけで良いって書いてあったから」
「気にするな、じゃあまた後で」
変に気遣われるほど辛い事もない。クリスは極力嫌味の無いよう平然と言葉を返すと、ハリーとジニーと一緒に空いているコンパートメントを探した。