第8章 【悪夢】
そう思っていたのはクリスだけではなかった。長い間グリモールド・プレイスに閉じ込められていたシリウスもまた、この外出を謳歌していた。
犬に変身したシリウスは、まるで口笛を吹くように楽し気に吠えたり、鳩を追いかけたり、自分の尻尾に噛みつこうとその場をくるくる回って笑いを誘った。
一方、ウィーズリーおばさんはシリウスをなるべく見ない様に真っ直ぐ前を見て、唇を真一文字にギュッと結んでいた。
屋敷を出てから20分後、4人と1匹はようやくキングス・クロス駅に辿り着いた。ウィーズリーおばさんは道中「マグルはよく魔法無しで移動できるわね」とこぼしていた。
9番線と10番線の間に立つと、まずトンクスが安全を確認してから、マグルに悟られないようスッと柵の中に消えた。それからハリー、シリウス、クリス、最後にウィーズリーおばさんが9と3/4番線の中へと消えた。
プラットホームには、深紅のホグワーツ特急が停車し、ホグワーツに向かう生徒とそれを見送る家族でいっぱいだった。人の波におされながらも、クリス達は皆が現れるのを待った。
ウィーズリーおばさんは胸に手を当てそわそわしていたが、間もなくロンとハーマイオニー、それに双子とジニーが現れるとほっと息を吐いた。
「これで全員か?トンクス、ルーピン、異常は無かったか?」
「任せてちょうだい、追跡も無し!」
「こちらもだ。異常なし」
最後に荷物と共に現れたムーディ先生が、護衛役のトンクスとルーピン先生に確認していた。
出発まであとわずか、最後の別れの前に、それぞれ暫しのお別れを言った。
「良いか?警戒するに越したことはない。それと手紙には十分注意しろ、迷ったら――書くな!」
「皆、気をつけて。また会えるのを楽しみにしている」
「私あなた達と会えてとても嬉しかった。またね!」
「あぁ、もう出発の時間だわ……良かったら手紙をちょうだい……クリスマスには帰って来てね、ご馳走を用意しておくわ。さあ、もう乗って……」