第8章 【悪夢】
「心配するな、護衛と言っても万が一を考えての策だ。実際に君達が襲われる心配は皆無に等しい」
クリスの反応を見て、シリウスが笑って答えた。それだけで、クリスは少し心が軽くなった。
だが安心する半面、これからシリウスの居ない生活を考えると、少しだけ不安が残るのも事実だった。
それから1時間後、出発の時間ぎりぎりまで、屋敷中てんやわんやの大騒ぎとなった。
ムーディ先生は護衛役のスタージス・ポドモアが来ないと怒って屋敷中をうろうろしていたし、フレッドとジョージはトランクを魔法で階段下まで運ぼうとして、誤ってジニーの頭に直撃させ大怪我をしたらしい。
ウィーズリーおばさんが応急手当てをしたが、フレッドとジョージに向かってカンカンに怒ってあらん限りの大声で怒鳴った。
「この馬鹿息子!!いったい何を考えているの!?大人になったのは身体だけで頭は6歳児以下のようね!!」
この怒声は、ロビーに掛けられているブラック夫人の肖像画の叫び声を凌駕していた。朝の騒ぎの中、もう誰もブラック夫人を気にかけている者はいなかった。それほど慌ただしい朝だったのだ。
ハリーが遅れてロビーに下りてきた時には、もうみんな集まって出発を今か今かと待ちわびていた。
「急いで頂戴ハリー。彼方は私とトンクス、クリスと一緒に行くのよ!荷物は置いていってね、後でムーディが届けてくれるから――まあっ!!シリウスッ!!!」
ウィーズリーおばさんの叫び声と共に、大きな黒犬がハリーのわきに現れた。
シリウスはその巨体からは想像できないほど愛くるしくハリーの傍にぴったりとくっ付き、意地でもついて行くと言いたげな態度を見せた。これには流石のハリーも苦笑いをした。
おばさんは何か言いたそうに口を大きく開いたが、言っても聞かないと判断したのか、結局同行を認めた。
「えぇ、そうですか!それならご自分の責任でお好きになさい!!――さあ、行きますよ!」
大きな扉が開き、クリスは約2か月ぶりに外に出た。久しぶりの太陽は眩しく、まだ夏の香りがほのかに残った風が心地よかった。