第8章 【悪夢】
それから数時間後、会議が終わったのかロビーの方でガヤガヤと話し声と沢山の足音が聞こえてきた。クリスが部屋に戻ろうか悩んでいると、不意に厨房の扉が開いてウィーズリーおばさんが入って来た。おばさんはクリスの姿を見て驚いた表情をした。
「あらクリス、こんな時間にどうしたの!?」
「夜中に起きてしまって……眠れないから紅茶を飲みながら暇をつぶしていたんです」
素直にそう言うと、ウィーズリーおばさんはちょっと困った様な顔で笑った。
「少し早起きし過ぎたみたいね。お腹は減ってない?何か作るわ」
「ありがとう御座います、でも大丈夫です。部屋に戻って荷物をまとめて来ます」
「そう?お腹が減ったら遠慮なく言ってちょうだい。そうそう、お昼はサンドウィッチで良いかしら?」
「はい、何から何まで済みません」
クリスは軽く頭を下げると、部屋に戻ってトランクの中身を確かめた。
いつもなら荷造りは屋敷しもべのチャンドラーがやってくれていたので、こんな手間はかからなかった。それを思うと、自分は今まで何て恵まれていたんだろうと、改めてチャンドラーが重要な存在だったのだと思い知らされた。
整理整頓されたトランク、アイロンがかけられた洋服、手作りのサンドウィッチ、今まで当たり前だったこと全てが泡沫の如く消えていく。
これまでの日々を思い出し、熱くなった目頭を押さえ、クリスは黙々と荷造りをした。
* * *
やがて朝日がさす頃、荷造りを終えたクリスは再び厨房へ下りて行った。中ではシリウス、ルーピン先生、トンクス、ムーディ先生が朝食を取りながら話し合いをしていた。
「やあ、お早うクリス。今日は一段と早起きだね」
「ちょっと眠れなかったので……荷造りをしていたんです。先生方は今日も早いですね」
「ああ、今ちょうど君とハリーの護衛をする者を決めていてね」
「私と……ハリーの護衛?」
まさかホグワーツに戻る時すら、不死鳥の騎士団の護衛が付くなんて思いもよらなかった。
ちょっと大げさすぎると思ったが、クリスもハリーも『死喰い人』にとって重要な人間なのは間違いない。2人が出歩く先には、それだけ危険が伴うと大人達は考えている様だ。