第5章 【純血の者】
バケツに入った真っ黒い虫の様な妖精を手でつまみながら、ジョージが皮肉った。
さっきおばさんの言っていた『ドクシー退治』とは、これのことだろう。みんな手袋とマスクをしている。傍らには、消毒液と思われる黒い液体の入ったスプレーが置かれていた。
「どうするんだ?それ」
「良くぞ聞いてくれました!」
「『ずる休みスナックボックス』に使うんだ。今はまだ開発中だけど、夏が明けたら本格的に商品化するつもりだ」
「ずる休――何だって?」
「俺達が考えた、授業をさぼりたい時に使うお菓子さ。2つで1組のお菓子になっていて、授業が始まる直前に片方のキャンディーを食べる。すると鼻血を出したり、気絶したり、吐いたりする。そして医務室に駆け込むと見せかけて、もう片方のキャンディーを食べる。すると症状はピタリと止まる」
「それから後の時間はお望みのまま。過ごしたい様に過ごせるって優れものさ」
終業式の日、列車の中で話していた悪戯専門店を本格的に始めるみたいだ。
今のクリスにとって、そんな双子が眩しかった。自分の夢を着実に叶えようとする姿には好感が持てるし、なにより将来に希望を持っているところが羨望に値する。
シリウスのお蔭でマシになったとは言え、未だクリスの心の穴は塞がってはいない。あの日から、どこか寂しい気持ちが心を占めている。
「おや?クリス、起きていたのか」
後ろから声が聞こえたかと思うと、シリウスが扉を開けて入って来た。バックビークに餌をやっていたらしく、血まみれの袋を手にしている。
シリウスが扉を開けたと同時に、ウィーズリーおばさんの怒鳴り声が屋敷中に響き渡った。
「マンダンガスッ!ここを盗品の隠し場所にしないでちょうだいっっ!」
「ママは今日も絶好調だな」
「こんな大鍋のために任務をさぼるなんて!彼方は騎士団のメンバーとしての自覚がなさすぎるわ!」
「よし、良いぞ。もっとやれ」
「扉を閉めようか」
苦笑いをしながら、シリウスが扉を閉めようとしたその瞬間、サッとクリーチャーが入って来た。それを見て、クリスとハーマイオニー以外全員が嫌な顔をした。
それもそのはず、厨房での態度を見るかぎり、クリーチャーが純血以外の人間にまともな態度をとるはずがない。
例に及ばず、クリーチャーはブツブツ呟きながら部屋にいる人間を一瞥した。