第5章 【純血の者】
「卑しい餓鬼共、血を裏切る下劣な生き物、下等な蛆虫共めが……奥様のお屋敷をめちゃくちゃにして……クリーチャーは何としてでも守らなければ。それにしても勝手に出て行ったくせに、のこのこ舞い戻って来てこの屋敷を土足で踏み荒らすとは、なんて面の皮の厚い恥知らずな……」
「それは私の事か?クリーチャー」
シリウスが冷たい声で言うと、クリーチャーは正に今気が付いたと言わんばかりに、豚鼻を床にこすりつける様にお辞儀をした。
「ご主人様、いらっしゃるとはクリーチャーは気づきませんでした」
「それで誤魔化したつもりか?忌々しい。さっさと出て行くんだ」
「クリーチャーは掃除をしに来たのです。クリーチャーはこの屋敷を守るのが生涯の務めでございます」
「嘘を吐くな。お前が部屋に現れるのは、この屋敷の物を捨てられたくないからだろう」
「クリーチャーはご主人様の行動に異を唱えた事など御座いません」
そう言いながら、クリーチャーは下に向けた顔を歪ませ、早口で毒づいた。
「あのタペストリーが捨てられたらクリーチャーは死ぬしかない。奥様が大切になされていた代々伝わる貴重なタペストリー。ああ、薄汚れた手であのタペストリーに触れたと奥様が知ったら、さぞやお嘆きになるだろう。アズカバン帰りの人殺しが――」
「そんなに死にたいなら、いっそこの場で殺してやろうか!?」
シリウスが凄むと、ハーマイオニーが間に入った。だがクリーチャーとしては汚れた血に助けられてもちっとも嬉しくないだろう。寧ろ不名誉な事だ。
案の定ハーマイオニーの事を汚いものを見る様な目つきで睨んでいた。
「落ち着いてシリウス、クリーチャーは気が動転しているだけよ。突然屋敷に人が出入りするようになったから……」
「甘いなハーマイオニー、こいつは以前からこうだったよ。ほら!出て行け!!」
シリウスはクリーチャーの耳を掴んで、無理矢理部屋から追い出した。それから怒った顔のまま、クリーチャーの言っていたタペストリーの所まで行き、表情をより一層険しくした。
タペストリーは色あせ、到る所がボロボロだったが、金の刺繍で施された家系図は未だ輝きを失ってはいなかった。長い歴史を物語らせるタペストリーは、上の方にでかでかとこう書かれていた。
――高貴なる由緒正しきブラック家――
純血よ 永遠なれ