第5章 【純血の者】
グレイン家の名前を出すと、クリーチャーは薄気味悪い微笑みを浮かべ、紅茶の準備を始めた。
クリスは、我ながらなんて趣味が悪いんだと思った。この体には、グレイン家の血など一滴も交じってはいない。この体に流れているのは、地上最悪の闇の魔法使いヴォルデモートと、悲運の果てに無理矢理手籠めにされた母、レイチェルの血だ。
あらためてそう考えると、クリスは自分自身に対して、吐き気がしてきた。
「どうぞ、お紅茶で御座います。他にクリーチャーにご命令は御座いますか?」
「いや、いい。下がってろ」
「……かしこまりました」
そう言って、クリーチャーは厨房を出て行った。クリスは紅茶を飲みながら、我が家を思い出した。
あの屋敷を存続させるために、政略結婚までさせられそうになり疎ましく思っていたが、今となっては恋しくて仕方がない。
それにチャンドラーの事も気になる。ダンブルドアの命令で、クリスの居場所がばれてしまう可能性があると言われ、手紙の1つも出すことが出来ない。
今、主人も失い、たった独りでチャンドラーはどうしているんだろう。帰らぬ主人を待ちつつ、あの屋敷の手入れをしているんだろうか。だとしたらなんと哀れな。クリスの口から思わずため息が漏れた。
クリスが紅茶を飲み終えた頃、厨房に疲れた様子のウィーズリーおばさんが入ってきた。しかしクリスの顔を見ると、精一杯ニコッと微笑んだ。
「お早うクリス、昨日はよく眠れた?」
「はい、久しぶりに」
「それは良かったわ。子供達はみんな2階の客間でドクシー退治を終えたところよ。昼食にサンドウィッチを作ろうと思っているんだけど、貴女も食べる?」
「喜んでいただきます」
「それじゃあ、先に客間に行ってて。直ぐに持っていくわ」
2階に上がり、クリスが客間の扉を開けると、中から消毒液の何とも言えない臭いが鼻をついた。
部屋は想像以上に酷い有り様だった。オリーブグリーンの壁は汚れ、汚らしいタペストリーが飾られており、床は埃まみれで靴の跡がくっきり残っている。
モスグリーンのカーテンはボロボロで、チンツ張りの椅子は色あせて光沢を失っていた。
「まるでお化け屋敷だな」
「やあクリス」
「お早う」
「いや“おそよう”の間違いじゃないか?」