第5章 【純血の者】
「大丈夫だ、私達は君を置いて死んだりしない。約束する。だから安心するんだ」
優しいシリウスの声に、クリスは安心してウトウトと眠くなって静かに目を閉じた。
その夜、クリスは久しぶりに懐かしい夢を見た。いつだったか、幼い頃高熱を出して寝込んでいた時の夢だ。
チャンドラーが看病のため、慌ただしく部屋の中を走り回っていると、熱で朦朧とする意識の中、ふと、父様の柔らかい手がクリスの頬を撫でた。
その優しい感触と温もりに、いつになく安心感を覚えて眠ることが出来た。
そんな懐かしくて――切なく、温かい夢だった。
翌朝、目覚めて見ると既に隣りにシリウスの姿は無かった。時計を見ると、針は12時近くを指していた。
クリスが厨房に下りて行くと、台所の傍で何かが動いているのが見えた。
よく見て見ると、これまで見てきた中で1番汚らしくて、1番年寄りな屋敷しもべが、何やらブツブツとボヤキながらゴミ箱を漁っていた。
名前は確か――そう、クリーチャーとか言っていた。クリスはクリーチャーの背中に向かって声をかけた。
「おい、そこのお前。悪いが紅茶をいれてくれないか?」
「汚らしい餓鬼がクリーチャーに話しかけている。クリーチャーは何も聞いていない……クリーチャーに命令出来るのは正しい血統を持った人だけ。あんなどこぞの馬の骨とも知れない糞餓鬼の命令なんて聞けない……」
なるほど、とクリスは思った。どうやらこの屋敷しもべは相当頭の固い純血主義に染められた、所謂キチガイらしい。
それならこちらも考えがあると、クリスは聞こえよがしに言った。
「そうか、私の名前を知らないらしいな。グレイン、クリス・グレインだ。あのスリザリンの血を引いている事で有名なグレイン家を知らないとは、ここの屋敷しもべも大した事ないな」
「……グレイン?まさかあの純血で有名なグレイン家?そこのお嬢さま?」
「ああそうだ、分かったらさっさと紅茶を入れろ」
「かしこまりました。……クリーチャーは嬉しい、薄汚れた餓鬼共しかいないと思っていたら、こんな所でかの有名なグレイン家のお嬢さまと出会えるなんて……奥様が知ったら、さぞお喜びになっただろう」