第5章 【純血の者】
クリスが鍵を開けると、扉のすぐそばにシリウスが立っていた。
さっき厨房で見せた真剣な表情が少し緩んで、穏やかな優しい顔をしている。クリスが何か言おうとすると、シリウスが人差し指をそっと当てそれを遮った。
「静かに、モリーに聞かれると不味い」
シリウスはそっと部屋に入ると、ヘッドに横になり、いつもの様に開いているスペースをぽんぽんと叩いて、クリスを誘った。
クリスがそこにゴロンと横になると、シリウスが優しく髪をすいてきた。
「どうしたんだ、シリウス?」
「いや、君が心配になってね」
「心配?」
「君がショックを受けているんじゃないかと思って……ルーピンにも言われたが、私は少し話し過ぎた様だ」
「そんな事ない!今までは……今までは、私が目を逸らし過ぎていたんだ。ハリーは戦う勇気があるのに、私は駄目だな」
同じヴォルデモート復活の場に居合わせたと言うのに、ハリーとクリスでは大きく差がある。それを今日思い知らされた。
ハリーには戦う覚悟があるのと言うのに、自分は身の安全ばかり考えている。
自己嫌悪に落ち込むクリスに、シリウスはいつもの様に軽く頭に唇を落として慰めた。
「安心しろ、ハリーが特別なだけで、何も君が劣っているわけじゃない。むしろ普通だ、君は普通の女の子だ」
「でも、駄目なんだ。普通の女の子じゃ、この先わたっていけない」
「君は頑なになり過ぎる傾向があるな。大丈夫だ、そんなに強張らなくとも、君たちの命は私が守る。私が保証しよう。だから安心してくれ」
柔らかく、囁く様な声に、クリスは心が融けていく様な気分がして、シリウスの胸に身をすり寄せた。
ほんのりと暖かい体温にほだされ、クリスはつい、日ごろ悩ませる心の声についてこぼしてしまった。
「……声が聞こえるんだ」
「声が?」
「頭の中で、あいつの……トム・リドルの声がするんだ。ちょっと前は姿まで見えた。私にそっくりな顔で、同じ瞳で、私の心の奥底をかき乱してくる。不安なんだ……自分の中に眠る血が、いつか親しい人を傷つけてしまうんじゃないかって。現に、父様も母様も私が――」
それ以上は声にならなかった。クリスが何も言わないでいると、シリウスがクリスの身体をギュッと抱きしめ、耳元で囁いた。