第5章 【純血の者】
「笑っている場合じゃない!ダンブルドアがこの調子で立場を危うくされていけば、最悪アズカバン行だって考えられるんだ」
「アズカバン!?」
クリスがチラリとシリウスの顔を窺ったが、シリウスの顔は平然としていた。
と、言うより、まるで仮面でも被ったかの様に、その表情から何かを読み取ることが出来なかったと言った方が正しい。同時にそれは、クリスの心をどこか不安にさせた。
「ダンブルドアが幽閉されれば、我々は打つ手がない。『例のあの人』が大人しいのは、ダンブルドアが先頭に立って不死鳥の騎士団を率いているからだ。ダンブルドアがいなくなれば……」
おじさんがそこで言葉を切ると、それを引き継ぐようにシリウスが無言で首を切る真似をした。
ダンブルドア――この1か月ほとんど姿を見せていないが、実際にはいったい何をしているんだろう。
こんな風に次々と魔法省から追い出される形で職を失えば、いざとなった時誰がハリーをを守るのだろうか。
ハリーは依然としてヴォルデモートに命を狙われている。ダンブルドアという後ろ盾があるからこそ今こうやって無事に生き延びているのだ。
それに不死鳥の騎士団は誰が率いていくのだろう。頭を失い、てんでんバラバラになったところを一網打尽にされたらそれで終わりだ。もしそんな事になったら自分はどうなるのか。――クリスは想像して寒気がしてきた。
「でもヴォルデモートが仲間を集めようとすれば、嫌でも奴が復活したってみんな気づくわけでしょう?」
「ハリー、ヴォルデモートは魔法使いの家を一軒一軒戸別訪問して仲間を集めているわけじゃない。騙し、恐喝、呪い、誰にも知られず心の隙をついて相手を取り込むのが非常に上手い」
「それにどちらにせよ、今は配下集めよりもっと関心を寄せているものがある」
「配下集めより関心を集めているものって?」
ハリーの質問に、一瞬シリウスとルーピン先生が視線を合わせて、答えようかどうしようか迷っているようだった。ややあって、シリウスが口を開いた。
「……そうだな、極秘にしか手に入らないものだ」
「それって、賢者の石よりも貴重なもの?」
「どちらとも言えないな。貴重なものには変わりないが。例えるなら――武器の様なものだ」
「武器って?死の呪文より強いの?」