第41章 【Angel smile】
そんな事を話している内に、他の生徒たちが徐々に談話室に降りてきた。これから朝食なのだろう。そう言えば2人とも、朝食どころか昨日の夕食すら食べていない事を思い出した。
途端にハリーとクリスのお腹から、ぐ~っと情けない音が聞こえてきて、2人は顔を見合わせて笑ってしまった。
「行こうか?」
「だな。あ、ハリー」
「なに?」
緊張の抜けきったハリーの頬に、クリスは軽くチュッとキスをした。
「お互い、生きててよかったな。じゃあ大広間に行こうか」
「う……うん」
突然の事に呆然としながらも、少し赤くなった頬を押さえるハリーを見て、クリスはシリウスがどうして軽々しくキスをするのか少し理解ってしまった。
そんなちょっとだけむずがゆい、朝日の眩しい午前の出来事だった。
* * *
聖マンゴ病院に行った皆も、2、3日入院したら直ぐにホグワーツに戻って来た。しかしまだ当分は医務室で大人しくするよう命じられていた。
クリスとハリーは、少しでも時間があるたびに医務室を訪れ、皆と一緒にフレッドとジョージがお見舞いにと贈ってくれたカエルチョコレートや百味ビーンズを頬張った。
お菓子目当てというのもあったが、本当は他の生徒に付きまとわられるのが嫌で避難してきたのだった。
『日刊予言者新聞』では、毎日ファッジの不手際を隠すように、ダンブルドアやハリー、クリスを持ち上げるのに必死だった。
今まで散々こき下ろしておきながら、ハリーの事はいつも通り「生き残った男の子」だなんだと騒ぎ立て、クリスは事実上ヴォルデモートの娘でありながら、その魔の手から召喚術を使って魔法省を守った救済の天使だと、連日のように面白おかしく書き立てていた。
「君が天使ね、本性を知ったらみんな何て言うか」
「ははははは、脳みそと戯れていただけの君と比べたら十分魔法省に貢献したよ」
「……それを言うなよ、なっ!」
ロンはカエルチョコレートの包みを丸めて、ごみ箱に向かって放り投げた。
気味の悪い脳みそ、もとい想念に取り付かれていたロンは、あの時シリウスが助けていなければ本当はもっと危ない状態だったらしい。
今もロンの腕にはミミズ腫れの様な痣がくっきり残っている。