第40章 【蘇る力】
無我夢中だった。本当に無我夢中だった。気が付くと、クリスはローブから杖を出し、考えるよりも先に、ヴォルデモートに向かって矢よりも早く杖を振っていた。
「エクスペリアームズ!!」
すると、驚くことにヴォルデモートの杖がはじき飛ばされ、宙を舞ってクリスの手の中に納まった。
――使えた。魔法が使えるようになった!!
再び魔力を取り戻した事に喜ぶ間もなく、ヴォルデモートに代わり今度はベラトリックス・レストレンジが烈火のごとく怒って突進してきた。
「小娘!死にたいようだね!!クルーシ――」
「シレンシオ!!」
クリスの背後から、ハリーが杖を振って呪文をかけた。一瞬、ベラトリックスは口をパクパクさせて、一生懸命声を出そうと試みていたが、ハリーの魔法が完全に決まっていた。
「クリスには指一本触れさせないぞ!」
「……そうか、そこまで死にたいか。ならばここで終わらせてやろう。ベラトリックス、杖を貸せ」
ハリーとシリウスがクリスを庇う様に前に立ちふさがった。クリスは2人の後ろで、密かに召喚の杖を手に取ってかまえた。
今なら使えるかもしれない。いや、今使わないでいつ使うのだ。クリスは目を閉じ、全神経を召喚の杖に集中させた。
「 悠久の空をかける 緑の君よ 」
詠唱を始めたその瞬間、クリスの足元に若葉色の魔法陣が出現し、それを中心に輝かんばかりの光が溢れ部屋にいた全員を包んだ。
クリスは杖を握り、神経を集中させたまま五感を解き放った。
「 古より伝わりし 血の盟約において汝に命ず ――出でよ シルフ! 」
「……くっ!!」
溢れていた光が破裂し、その強烈な光に誰もが瞼を閉じた。
そして再び目を開いたその時、そこには新緑を思わせる鎧に身を包んだ、髪の長い美しいワルキューレが佇んでいた。銀色の槍を携え、凛とした姿は例えようもなく美しかった。