第40章 【蘇る力】
「ごめん――みんな……」
クリスは1歩1歩石段を下り、部屋の中心にいたハリーの元へ向かった。
今動いたら、ハリーに磔の呪いがかけられる。それが分かっているから、クリス以外誰も動けずにいた。
緊張の張りつめる部屋のの中で、クリスはハリーの真正面に立った。
「ハリー、予言を渡してくれ」
「…………」
「どうした?」
クリスの言葉に、ハリーが困ったように眉根を寄せた。クリスが僅かに首をかしげると、ハリーがクラウスやベラトリックスに聞こえないように、耳元で小さくささやいた。
「そうしたいんだけど……さっき壊れちゃったんだ。予言は――もうないんだ」
「そうか……なら――」
クリスもハリー同様、小さく耳打ちをすると、最期とばかりに手を握った。それから父様の方を向いて、ゆっくり階段を上っていった。
そんなに離れていないはずなのに、何故か遠くの方でシリウスとルーピン先生の声が聞こえた。それほどまでにクリスの頭の中は真っ白だった。――ただ1つの事を除いて。
クリスはクラウスの前に立つと、その顔をもう1度じっくり眺めた。
彫刻を思わせる端正な顔立ちに、陶器の様な白い肌、憂いを帯びた瞳、絹の様に柔らかな漆黒の黒髪。
こんなに似ているのに血の繋がりがないなんて、皮肉すぎて笑ってしまう。
「何を笑っている?クリス」
「いえ……。お願いです、父様。あの言葉を聞かせて下さい」
「あの言葉?」
「はい、私と父様、2人だけの言葉を」
そう言うと、クラウスがふっと笑った。クリスはその緩んだ頬を愛しむようにクラウスの頬に手を添えた。
「これは私とお前を繋ぐ印だ、だけど決して誰にも見せてはいけない。見せたら最後、私とお前は離れ離れになってしまう」
「ありがとうございます、父さ――……まあっっ!!!!」
添えた手でクラウスの頭をがっちり固定すると、クリスは目から星が飛び散るほど強く、思いっきり頭突きを食らわせた。
その衝撃でクラウスの体がよろめき、クリス自身も自分もその威力に足元がふらついて1、2歩後ろに下がった。
「っ……今だ、ハリー!!」
「アクシオ!召喚の杖よ、来い!!」