第39章 【いざ魔法省へ】
「クリス?いっふぁいなにがあった?」
何があったんだろう。悪戯スナックボックスを食べた後みたいに大量に鼻血を流して、両方の鼻の穴にティッシュを詰めているドラコが、フガフガ話しかけてきた。だが、クリスはそれを無視して医務室を出た。
談話室は人気があって、魔法省に行くのには向いていない。どこか人気のない暖炉はないだろうか。あまり人が近寄らない、人気のない暖炉は――……。
クリスが考えながら廊下を闊歩していると、シェリー酒の瓶を片手に抱え、ブツブツ悪態をつきながら廊下を歩くトレローニー先生の姿が目に入った。
トレローニー先生は『占い学』の教授の職を失ってから人が変わってしまったみたいだ。
だがその姿を見て、クリスは閃いた。そうだ、北塔の天辺にあるトレローニー先生の旧『占い学』の教室。あそこならまず一般の生徒は立ち入らないし、暖炉も年中火が焚かれている。
クリスは北塔に急いだ。今は1分1秒でも無駄にできない。急に走ったせいで、脇腹が痛くなり、そのうち息が上がって呼吸が苦しくなっても、決して足を止めなかった。
きっと今シリウスは、私よりも苦しい目に合ってるはずだ。ハリー達も相手がヴォルデモートでは、命が幾つあっても足りないはずだ。
少しでも早く駆けつけて、力になりたい。その一心で北塔まで走った。
そして急いで旧『占い学』の教室の梯子を上ると、相変わらずむわっとする熱気がクリスを迎えた。
「この季節になっても常に暖炉に火を入れているのが、まさか役に立つとはな」
クリスは暖炉の上に置いてあった煙突飛行粉を手に取ると、1つまみ暖炉に放り込んだ。
たちまち赤い炎が鮮やかなエメラルド・グリーンに変わると、クリスはギュッと拳を握り叫んだ。
「魔法省!!」
踊る炎の中に飛び込み、グルグルと回転するさまを楽しむ余裕もなく、クリスの体はホグワーツから遠く離れた魔法省まで移動した。