第38章 【忍び寄る魔の手】
とにかく今はハリーのもとに急がなければ。3人はハリーがいると思われる医務室に向かった。
「ハリー!!」
「まあ、何ですかいったい!」
勢いよく医務室の扉を開くと、中からマダム・ポンフリーの声が響いてきた。室内をうかがってみたが、ハリーの姿はない。
「先生、ハリーは来ませんでしたか?」
「ポッターですか?来ましたけど、直ぐに帰りましたよ。そうそう、あなた方が来たら、3階の女子トイレに来るように言伝を頼まれました」
「3階の……そうか!ありがとうございます!」
ロン、クリス、ハーマイオニーは一言礼を言うと、3階に続く階段を、2段飛ばしで駆け上った。
3階の女子トイレ――つまり『嘆きのマートルのトイレ』だ。わざわざ人が立ち寄らないマートルのトイレを選ぶくらいだから、よほど聞かれたくない話なんだろう。
「ハリー、居るか!?」
「みんな!」
ハリーの顔色は、大広間で見た時と変わりがなかった。いや、それよりも悪くなっているような気がする。トイレの奥では、マートルがパイプに座ってブツブツ呟いていた。
クリス達はマートルを完全に無視し、ハリーにいったい何があったんだと訊ねた。
ハリーは『魔法史』のテストの時、うっかり居眠りをしていたことを告白した。そして夢で――いや、夢ではない夢で視た驚愕の事実を口にした。
「シリウスがあいつに捕まった。今、拷問を受けてる」
「あいつって……」
「ヴォルデモートだ」
それを聞いた瞬間、クリスの血液がサーっとつま先まで全て下がっていったような心地がした。
ただの寒気とも違う、奇妙な悪寒が全身を纏う。指先の感覚がなくなり、僅かに震えているのを隠せずにいた。