第38章 【忍び寄る魔の手】
「うらやましい、私も寝ようかな……」
「余裕あるの?」
「ふ、フフ、フフフフフ……」
「うん、君ももう寝た方が良いよ。脳に限界が来てる」
確かにハリーの言う通りだった。これ以上は脳に詰め込む隙間が無いと判断したクリスは、女子寮へ戻っていった。男2人はまだまだ頑張るらしい。
クリスはネグリジェに着替えると、ベッドに身を投げた。と同時に、フィルチに鞭で打たれたところが引き攣るように痛んだ。
ローブで隠れているが、もしこの事をハリー達が知ったらどうなるだろう。
憐れむだろうか、怒るだろうか。もしドラコが知ったら、いつもみたいに「父上に言いつけてやる!」とかなんとか言うだろうか。
なんだか想像がつく姿に、クリスはクスっと笑った。そしてそのまま幸せな眠りについた。
翌朝、クリスは珍しくすっきりした気分で目が覚めた。これなら小難しい『魔法史』の試験も上手くいくかもしれない。
朝食の席で、目の下にクマを作っている生徒を余裕の表情で眺めながら、クリスは優雅に紅茶を嗜んでいた。
それから間もなくして、最後の試験に臨むため5年生と7年生は大広間から出た。
クリスの周りでは最後のあがきとばかりに教科書を必死に頭に叩き込む生徒が大勢いた。ハリーもそのうちの一人だった。
昨夜は一睡もしなかったのだろう、少しやつれて見えた。ロンはすでに達観したのか、ハリーの教科書を時々チラ見するだけで、後は何もしていなかった。
学年主席のハーマイオニーは、お手製の年表を開いて最終チェックを行っていた。
「生徒諸君、入りなさい」
ついに最後の試験が始まった。これが終われば全てから解放される。
生徒全員が席に着き、合図と同時に試験問題を表にすると、クリスは順調に羽ペンを走らせた。
チラリと隣の席のハーマイオニーを見ると、鬼の様な形で問題用紙を睨みつけている。クリスも負けじと試験に戻った。