第38章 【忍び寄る魔の手】
「これはこれはミス・グレイン。こんなところで何をやっているのかな?生徒はもうベッドに入っている時間だが?」
スネイプの冷たい声が廊下に響く。答えたくても答えられないクリスは、何とか視線を動かして意思疎通を図った。
スネイプは何か言いかけたが、そのまま黙って杖を振った。するとやっとクリスの体が自由になった。クリスは床に倒れたまま礼を言った。
「ありがとう……ございます」
「さて、先ほども言った通り生徒はもう寮にいる時間だ。減点されたくないのならさっさと戻りたまえ」
「戻りたくても、その……動けないんです。鞭で打たれた場所が痛くて……」
背中などは洋服を着ている分いくらかマシだったが、ふくらはぎなど素肌がむき出しになっている下半身等は、直に鞭を打たれたせいで痛みが激しく、立ち上がることなど到底出来やしない。
スネイプはその黒く冷たい瞳で、クリスを見つめた。そして何を思ったのか、横抱きにクリスの体を抱き上げると、いつも『魔法薬学』で使う地下牢の教室までクリスを運んだ。
「あの……スネイプ先生?」
「黙っていろ。今痛み止めを調合してやる」
言うが早いか、スネイプは材料を用意し、大鍋に火をつけて少し煮込むと、本当にあっという間に薬を成させた。
それを包帯に浸し、腫れあがった下肢に丁寧に巻いていく。するとスーッと痛みが引いていった。
流石は『魔法薬学』の教授だ。効き目は本物である。
「あと10分もすれば動けるようになる。それでも寮に戻らないのならば、グリフィンドールから100点減点する」
「わ……分かりました」
10分後、痛みがとれたクリスはスネイプにお礼を言い、地下牢の教室を出た。廊下を曲がる寸前、クリスはもう1度教室の方を振り返った。
スネイプがクリスには優しい理由――ヴォルデモートの娘だからなのか。それとも、クラウスの娘だからなのか。どちらなんだろう……。
クリスはスネイプの瞳を思い出し、父様に似たその暗い瞳の奥にそっと思いを馳せた。