第38章 【忍び寄る魔の手】
「さあて、夜はまだまだ長い。これからたっぷり可愛がってやろう」
クリスの細い体を鎖に繋ぐと、フィルチは渾身の力を込めて鞭をふるった。
ヒュッと鞭がしなり、クリスの体を打つたび激痛が走る。
「どうした!?悲鳴が上がらないな!!もっと痛めつけないと分からないか!?」
そう言いながら、フィルチは嬉々として何度も鞭をふるった。
正確には、先ほど食らったアンブリッジの魔法の所為で悲鳴どころか声一つ上げることが出来ないのだが、もし声を上げられたとしても、それでフィルチを喜ばせるくらいなら死んでも悲鳴など上げるものかと、クリスは必死になって痛みに耐えていた。
どのくらい時がたっただろう。何度鞭をふるってもクリスが声一つ上げないので、フィルチは面白味がなくなってきた。
それに老いぼれた体で長い時間鞭をふるうというのも一苦労で、フィルチはとうとうクリスが泣いて懇願してくるのを諦めてムチを投げ捨てた。
「このっ!つまらん木偶人形めが!!」
クリスを鎖から外すと、フィルチは事務所の外に蹴り飛ばした。
何度も鞭で打たれたからクリスの体からは血が滴り落ち、激しい痛みと熱で、クリスは自分でも正気を保っていられるのが不思議なくらいだった。
それでもクリスは助けを呼ぶどころか、指先一つ動かす事が出来ず、固くて冷たい廊下の上に転がっていた。
やがて刻一刻と時間が進み、気が付けば夜中になっていた。クリスは唯一動かせる目を閉じ、マクゴナガル先生とハグリッドの身を案じた。
マクゴナガル先生は、誰かの手で助けられたのだろうか。ハグリッドは、失神呪文を跳ね返していたようだが、果たして無事なのだろうか。
その時、廊下の奥から、コツコツと人の足音が聞こえてきた。良かった、これで助かる。そう思ったクリスが見たのは、他でもない、冷徹な表情を浮かべたスネイプの姿だった。